ANAインスピレーションで優勝したタイの新鋭パティ・タバタナキットはすごかった。4ラウンド平均のドライビング・ディスタンス(DD)が323・0ヤード。測定ホールはダウンスロープが入っていた。空気も違う。開催コース・ミッションヒルズがあるランチョミラージュは砂漠地帯。湿度5%なんて日もあった。

ボールの反発がよく、空気も乾燥していてキャリーが伸びる。WOWOWで解説していた岡本綾子さんは「(クラブで)1番手は違う」と言っていた。ランも30ヤード以上転がるシーンがざらだった。だから、323・0ヤードは額面通りと言いがたい。それでも、すごい。

逆の意味で朴仁妃もすごかった。DDは248・3ヤード。予選2ラウンド(R)平均は233・3ヤード。それでいて7位に入った。メジャーはエビアン選手権を除く4大会で通算7勝。世界ランク2位。まだ32歳だが、5年前に米ツアー殿堂入りしたレジェンドである。

予選落ちした渋野日向子のDDは263・0ヤードだった。

今は飛距離が落ちている。今年から取り組むスイング改造。トップの位置を右肩のラインぐらいまで低く、浅く。昨年限りで青木翔コーチから離れ、石川遼の助言を得て「スイングの再現性向上」「ショットの精度向上」を狙う試みの影響によることは明らかで、それは本人も認めている。実際、21年初戦ダイキン・オーキッドレディースで新スイングを見て、大きな変化に驚いた。同時に「ざっと言うと、米ツアーで戦うためです。もっと強くなっていくために必要なことなので」と説明する姿に強い意思を感じた。

それでも、どうしても飛距離は気になった。予選Rで笹生優花、第3Rで山路晶ら飛ばし屋に、30ヤード以上置いていかれる場面があった。だから「ショットの精度を求めるのはなるほどですが、飛距離への欲求はわきませんか?」と聞いた。

渋野 う~ん、今はないです。アメリカに行けば必要になると思うけど、今目指しているスイングができるようになれば、また伸びてくると思うので、今はないです。

男女を問わず、米ツアー挑戦に踏み切り、飛距離の差を痛感し、自分も飛ばそうとあがき、スイングを崩したり、体を痛めてしまったプロは多い。周りの選手より、ティーショットが飛ばない。グリーンを狙うショットの番手が1つ、2つ、下手をすれば3つ違う。番手が大きくなれば、スピンがかかりにくくなる。球も上がらない。するとチャンスにつかない。だから、悩み、苦しむ。

渋野の21年の米ツアー挑戦はANAインスピレーションから始まった。今週はハワイでロッテ選手権に出場。主催者推薦出場の道を探りながら、6月初旬の全米女子オープンを経て、6月末の全米女子プロ選手権まで約3カ月間、続く見込みだ。おそらくその後、日本に戻るが、来季の米ツアー本格参戦を狙い、11月のファイナルQスクール(最終予選会)にターゲットを絞っていく。

ちなみにANAインスピレーションの他の選手のDDはこんな感じだった。

飛ばし屋レキシー・トンプソンは308・5ヤード。

世界ランク1位高真栄(コ・ジンヨン)は265・5ヤード。

日本でも活躍した中国のフォン・シャンシャンは261・5ヤード。

タバタナキット、トンプソンのようなパワー・ゴルフは大きな潮流になりつつある。一方で朴仁妃、高真栄、フォン・シャンシャンらはショットの精度、アプローチ、パットの技術を突き詰め、スコアをまとめ、世界のトップに君臨する。

「周りからいろいろ言われることはあると思いますが、私は自分の信じたことを貫きます」。渋野が現状、求めているスタイルは後者だ。米ツアー遠征の3カ月間、時にはパワーヒッターに飛距離で後れを取り、時には自分よりはるかに精度の高いショットを見せつけられるだろう。それでも、強い気持ちをなくさず、頑張る渋野日向子を見てみたい。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)