ありがたいことに、ゴルフ以外のジャンルも並行して取材している。少し前まで映画担当をしていた縁で、ある映画の関係者試写会に招待された。「孤狼の血 LEVEL2」(8月20日公開)。広島を舞台に暴力団と刑事の強烈なせめぎ合いを描くものだ。3年前に「仁義なき戦い」のオマージュ的な視点を持ち、役所広司主演で公開された作品の続編なのだが…すごかった。スタッフ、役者の情熱がこんな作品を作るのだろう。

主演の松坂桃李は、前作で殉職した刑事の遺志を継ぐ後輩刑事を演じた。清濁併せのむ風情を漂わせ、役所の穴を完全に埋めた。そして、鈴木亮平。狂気につかれて暴走するやくざ役で、作品の発する圧倒的熱量の核になった。鈴木は試写会で「松坂君を“食うこと”が僕の役目でした」とあいさつした。単純な言葉だが、覚悟のこもった熱演を見た後だけにシビれた。

高校ラグビーの強豪・東海大仰星の湯浅大智監督は選手をよく「表現者」という言葉で例える。プレーヤーは勝利に向け、考え、発想し、鍛え、全力を尽くす。結果的として「見る者」に伝わり、心を揺さぶる。その意味ではフィクション、ノンフィクションと相反しても、俳優もプレーヤーも変わりない。

大事なのは情熱だ。

5月6日から4日間、栃木・西那須野CCで開催された国内男子ツアー「日本プレーヤーズ選手権byサトウ食品」は、本当にすばらしい大会だった。優勝争いを白熱させた最終18番パー4。左サイド全般にかかる池、右に林。ティーショット、セカンドショットとも重圧を受け、グリーンは数面に区分され、落としどころが極端に絞られる。

最終日は右から強いアゲンストが吹き、石川遼がドライバーショットを池に落とすなど、プレーオフ必至と見られた大混戦がこのホールで淘汰(とうた)され、先に上がっていた片岡尚之が優勝した。

カリフォルニア州のチェンバーズベイGCで開催された15年全米オープンで、藤田寛之は「こういうホール、日本にないでしょ? 日本にも欲しいですね」と話した。さらに昔、米ツアーで戦っていた丸山茂樹は「俺もだけど、日本人に“池恐怖症”は多いと思うよ。だって、日本って池が少ないでしょ?」と話した。

日本にも、こんなゴルフ場があった-。西那須野CCは、そんな刺激的なフィールドだった。

開催コースのポテンシャル以前に、大会の成り立ちが興味深かった。主催が企業や競技団体でなく、日本ゴルフツアー選手会。「プロゴルファーの、プロゴルファーによる、プロゴルファーのための大会」という史上初の試み。「コロナ禍で少なくなった試合を増やしたい」と大会会長を務めた時松隆光・選手会会長。池田勇太、石川遼、小鯛竜也の選手会副会長3人はもちろん、大勢のプロゴルファーが奔走し、自分たちの戦いの場を作り上げた。

「サトウのごはん」で有名なサトウ食品が選手会の心意気にこたえ、大会直前に特別協賛で加わった。CS放送の「ゴルフネットワーク」がネット中継を絡めて、4日間の熱戦を生で伝えた。放送内容には賛否あるかもしれないが、少なくとも、稚拙な実況、構成でがっかりすることの多い地上派放送の中継と違い、専門チャンネルの力を十分に感じさせてくれた。

松山英樹がメジャー・マスターズを制し、日本中が熱狂した。優勝賞金は日本円で2億2770万円。日本プレーヤーズ選手権は優勝賞金1000万円で、実に22分の1以下で、女子を含めた国内ツアー全体で見ても最低額。しかし、考えてみれば、マスターズも「世界のマスターを集めた大会を」というボビー・ジョーンズの情熱が出発点ではないか。

ゴルフのトーナメントに、企業スポンサーは欠かせない。その企業にも社会貢献や、自社のイメージアップなどの思いがある。ただ、こんなトーナメントもあってもいい、いやあってほしい。日本プレーヤーズ選手権byサトウ食品は、情熱あふれる大会だった。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)