運命的な巡り合わせが大会を盛り上げた。国内女子ゴルフツアー、ニチレイ・レディース(6月18日~20日)最終日。上位がだんご状態の接戦となる中、初日から首位を守った全美貞と、最終日に6つ伸ばして追いついた申ジエのプレーオフに突入した。共に同大会優勝経験がある韓国人同士のハイレベルな戦いは4ホール目までもつれ込み、最後は申ジエに軍配が上がった。両者が3ホール目まで3連続バーディーを奪う約1時間の激闘だった。

プレーオフ4ホール目でニチレイ・レディースを申ジエ(右)はガッツポーズ。左は全美貞(2021年6月20日撮影)
プレーオフ4ホール目でニチレイ・レディースを申ジエ(右)はガッツポーズ。左は全美貞(2021年6月20日撮影)

これで2人は日本ツアー優勝回数(米ツアーを兼ねたものなどを除く)でも25勝で並んだ。優勝会見で申は「私もそうですが、全美貞さんも永久シードのためにすごく頑張っている。2人の永久シードへむけた強い思いで良い勝負になりました。今日は自分の方が少し運が良かった」と語った。永久シードは30勝以上の選手に与えられる権利で、これまでの達成者は樋口久子、■阿玉、不動裕理、大迫たつ子、岡本綾子、森口祐子の6人のみ。今もレギュラーツアーに継続的に出場している選手で30勝に最も近いのは現在産休中のアンソンジュの28勝で、全と申がそれに続く形だ。

優勝した申は賞金1800万円を積み上げ、賞金ランキング首位の小祝さくらと約6450万円差の7位へ浮上。世界ランキング1位や米ツアー賞金女王など数々の栄光を手にしてきたベテランは、まだ手にしたことのない日本ツアー賞金女王のタイトルについても「まだわかりませんが、ネバーギブアップですね」と意欲をみせた。常に謙遜しながらも、不敵に笑う姿が印象的に映った。

左から稲見萌寧、古江彩佳、小祝さくら
左から稲見萌寧、古江彩佳、小祝さくら

優勝争い以外でも面白い巡り合わせがあった。東京オリンピック(五輪)代表を争う稲見萌寧と古江彩佳が最終日に同組となった。この組には小祝も加わるサプライズ。くしくも賞金ランキング1~3位までの3人がそろうという、有観客開催でないのが惜しい組み合わせが実現した。2日目は稲見と小祝が同組でインから、古江はアウトから2人の組より5分早いタイムスケジュールでスタートしていた。全員が首位と6打差の2アンダー、142で終え、同じスコアには9人が並んでいた。同スコア時の組み分けはホールアウトした順番を基準に早く終えた選手が翌日は遅い時間のスタートとなり、スタートホールが違う組はスコアカード提出時間で判断する。優勝争いではない位置で起きた偶然。2日目終了後に大会運営から3人の同組が伝えられると、メディアルームはざわついていた。

2番、ティーショットを放った古江彩佳(右)とすれ違う稲見萌寧(2021年6月20日撮影)
2番、ティーショットを放った古江彩佳(右)とすれ違う稲見萌寧(2021年6月20日撮影)

ちなみに、最終日の稲見と古江は上下黒とウエアまでかぶっていた。朝から降っていた雨がやみ、7番ホールで古江がレインウエアのズボンを脱いで白いスカート姿になったため、その光景は序盤のみだったが、これも偶然の一致だったという。古江は「萌寧ちゃんも同じ黒に蛍光色が入った感じだったので、びっくりしました」と語っていた。

ゴルフは優勝回数をはじめ、賞金ランキング、世界ランキング、各スタッツ…と何かと比較される物差しが他スポーツよりも多いと感じている。数字は1試合ごとに変動し、毎度比べられる選手らは大変だが、そこから生まれるドラマももちろんある。まだ今年は38試合中16試合を消化したのみ。最後に栄冠が巡ってくるのは誰なのか。そこに至る過程も含め、今後もしっかりと追っていきたい。【松尾幸之介】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

※■=サンズイに余