東京オリンピック(五輪)が始まる。この言葉の前に「いよいよ」と付けることに、違和感を覚えた。五輪が大好きだった日本人にとって、57年ぶりとなる自国開催の夏季五輪。当然「いよいよ」の雰囲気になると、思っていた。少なくとも私は、2020年を迎えた年明けの時点で「いよいよ今年か」と胸が高鳴り、延期されることなど、全く予想できなかった。今や五輪開催を歓迎しない人も多く「いよいよ」に替わる修飾語句として「そういえば」や「やらなくていいのに」の方が、世間の声に近いかもしれない。

前回の16年リオ大会で112年ぶりに五輪に復活したゴルフは、世界ランキング1位で今年の全米オープンを制したジョン・ラーム(スペイン)を筆頭に、スターが集結する。同2位のダスティン・ジョンソン(米国)こそ出場を辞退したが、ジカ熱の懸念などで多くの選手が欠場した前回とは状況が違う。

米国代表は、前週の全英オープンでメジャー2勝目を挙げた3位のコリン・モリカワから、世界屈指の飛ばし屋で人気の高い6位のブライソン・デシャンボーまで、世界ランキング上位の4人が出場する。しかもモリカワは父が日系米国人、5位のザンダー・シャウフェレ(米国)は祖父母が東京在住と、日本に縁のあるスターが多い。何より今年、日本人男子初のメジャー制覇を果たした、マスターズ王者松山英樹の凱旋(がいせん)試合。無観客開催が決まり、盛り上がりに一段と水を差す形となった気がする。

東京の街にも五輪ムードは少ない。昨日20日の夜、都庁を見に行ったが、真っ暗だった。以前はトリコロールカラーやレインボーカラーにライトアップされることもあったのに、いざ自国で、東京で五輪が開催される直前は真っ暗。緊急事態宣言下でもあり、盛り上げてはいけないような空気を象徴している気がした。

初めて五輪取材に行った、08年の北京大会は五輪ムードにあふれ返っていた。空港に到着すると、至るところで五輪のマークを目にした。ボランティアらが着る、そろいのTシャツ姿の人は、一般販売されていたこともあって、山のようにいた。選手村の開村式に登場した、当時NBAのバスケットボール中国代表の姚明が引き揚げる際には、人が群がっていた。競泳のスパースター、マイケル・フェルプス(米国)が北京の空港に降り立つと、ボランティアの人が担当職務そっちのけだったのか一般の人だったのか、そろいのTシャツの人を中心にもみくちゃにしていた。たしかに秩序には欠けていたかもしれないが、熱気は尋常ではなかった。

そんな高揚感を、再び味わえると思っていた。ただ、まだ始まってもいないのも事実。テレビ観戦しか手段がなく、ゴルフも通常の米ツアーと同じような感覚になるだろう。だが日本にスターが集まり、熱戦を繰り広げることに変わりはない。ゴルフの会場となる、埼玉・霞ケ関CCがなくなるわけでもない。同じコースを回る機会があれば、デシャンボーがどこまで飛ばしたか、ラームがどれだけ長いパットを決めたか、身近に感じることもできる。今は盛り上がりに欠けても、スターが共演した舞台でのプレーを励みに、将来の日本人メジャー王者が生まれるかもしれない。今は開催に批判の声はあっても、将来の日本のスポーツ界にとって、大きな意味を持つ大会となることを願ってやまない。【高田文太】