日本女子プロ選手権で優勝した稲見萌寧はすごい。最終日に64なんて文句なしだ。2位は19歳の西郷真央。勝てば、国内メジャー最年少記録だったから、これもすごい。しかし、ある意味で最もすごかったのは44歳、06年賞金女王の大山志保ではないか。

国内メジャー最年長優勝は97年日本女子オープン、岡本綾子の「46歳88日」。大山が勝てば、2位具玉姫(02年日本女子プロの46歳45日)に次ぐ歴代3位の年長制覇だった。ちなみに岡本が勝った97年は賞金ランク上位20人中20代が福嶋晃子、高村亜紀、服部道子、木村敏美の4人だけ。一方、現在の同ランクは30歳以上が申ジエ、菊地絵理香、上田桃子、全美貞の4人だけ。黄金世代など若手が幅を利かす時代に、大山の存在は驚異的といえる。

つくづく「不死鳥」だ。09年オフに左肘を手術した。12年には左肩痛でシーズンの半分を棒に振った。16年はリオデジャネイロ五輪代表決定前の5月末に首、背中を痛めながら、代表の座を手にした。

今年も苦労した。年明け早々、スーパーに行き、買い物袋を持とうしたら、左手に力が入らない。症状は日に日にひどくなり、顔が満足に洗えず、お茶わんを持つのもつらい。痛みの中心は左肩甲骨。「胸郭出口症候群」と診断された。

21年開幕戦ダイキン・オーキッドレディースの欠場を決めた時には「最近やっと歩き始めたんですけど、まだ走れないんです。アプローチ、パットだけはできるけどショットは無理…。今回ばかりはまいりました」とこぼした。その後に左足首も捻挫して、復帰は21年の第13戦リゾートトラスト・レディースまでずれ込んだ。そんなコンディションでいて、ここまでのプレーをやってのける。

日本女子プロ選手権のパーオン率1位は大山だった。72ホール中60ホールに成功して83・3%。稲見の79・2%(72ホール中57ホール)を上回った。05、06、08年にパーオン率1位となった44歳の元No.1ショットメーカーが、22歳のNo.1ショットメーカー以上の数値をたたき出した。

今回、現地取材に行けなかったので、大会中に「頑張ってください」とメールすると、笑顔の絵文字込みで返事が返ってきた。

「ゴルフが楽しくて楽しくて幸せです!」

「西郷さんと25歳差みたいで、そんなに違ったなんて。気持ちは同世代。44歳頑張ります!」

本当にため息が出る。すごいプロゴルファーだ。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)