岩田寛(34=フリー)が通算16アンダー272で今季初勝利、昨年フジサンケイ・クラシック以来の通算2勝目を挙げた。2打差3位から出て、6バーディー、ノーボギーの66で回り、逆転勝ちした。真面目で心優しい「愛されキャラ」の男が、今平周吾(22)に1打リードで迎えた17番で闘争心を全開にし、バーディーを奪って勝負を決めた。昨年世界選手権シリーズのHSBC選手権で3位となった実績もあり、来季の米ツアー参戦を狙う。

 17番で岩田は「ここだ」と勝負をかけた。残り157ヤードの第2打、先に打った今平が8番アイアンでショートしたのを見て、9番ではなく8番に持ち替えた。球はピン左奥1・5メートルにピタリ。「そこでホッとしたら負けると思った」。慎重に沈めた。15番で1・5メートルを外し、16番で今平に1打差に詰められた直後に、すかさず突き放した。

 喜怒哀楽があまり表に出ない男だ。派手なガッツポーズもない。「僕だってしたいですよ。でも、出てこないっす」。同組の今平との優勝争いで「目の前でやるのは失礼かと…」。大会名誉会長の長嶋茂雄氏が途中で見に来たのにも気づいたが、「見ると緊張するので、見ないようにした」。表彰式前のスピーチでは優勝パットの場面を「緊張しました。でも人前で話す方が緊張します」と言って、観衆の笑いを誘った。

 記者会見でも第一声は「本当におなかがすいたんですよ」だった。正直で、素朴な話し方、独特の間合いで周囲を和ませる。表彰式の後でテレビ解説の青木功や丸山茂樹らに「『賞金王になる、くらい言えないのか』とか、『優勝カップをもらったらギャラリーに見せるように』とか、怒られました。勉強になります」と明かした。

 以前、メジャー5勝の故セベ・バレステロス氏(スペイン)は優勝争い時に「相手ののど元をかみちぎるくらいの気持ちで戦った」と本で読んだことがある。だが、「(僕には)できないです」。ただ、この日の17番だけは違ったと振り返る。闘争心が燃え、こん身の一打で容赦なく勝負を決めた。昨年HSBC選手権ではB・ワトソンら世界トップと争って惜敗。「悔しくて、3日間眠れなかった」。世界舞台を知り、今後の目標は来季の米ツアー挑戦と決めている。ポーカーフェースだが、心には熱いものを秘めている。【岡田美奈】

 ◆岩田寛(いわた・ひろし)1981年(昭56)1月31日、宮城県出身。野球をやっていたが、父でプロの光男氏の教えで14歳からゴルフを始め、仙台育英高から東北福祉大へ。04年にプロ転向。06年に賞金ランク62位で初シード獲得後、シード権維持。初優勝まで2位3回、3位5回と惜敗続きも昨年開花し、賞金ランク4位に。ツアーブックの得意クラブの欄は「クラブすべて」。177センチ、74キロ。