プレーバック日刊スポーツ! 過去の7月27日付紙面を振り返ります。2009年の1面は、宮里藍の念願の米ツアー初制覇でした。

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<米兼欧州女子ツアー:エビアンマスターズ>◇最終日◇26日◇フランス・エビアンマスターズGC(6373ヤード、パー72)◇賞金総額325万ドル(約3億875万円)優勝48万7500ドル(約4631万円)

 藍ちゃんが、ついに勝った! 宮里藍(24=サントリー)がプレーオフを制し、念願の米ツアー初制覇を果たした。首位に1打差4位から出た最終日は、5バーディー、2ボギーの69で通算14アンダーの274。ソフィー・グスタフソン(スウェーデン)とのプレーオフに突入し、1ホール目でバーディーを奪って、パーの相手を振り切った。07年夏以降にドライバーが打てず、引退も頭によぎったほどのスランプを克服。米ツアー参戦4年目、通算83試合目で夢をかなえた。

 声を詰まらせ、目を潤ませた。宮里が、長く勝てない空白をついに乗り越えた。「やりました。今日はすごく自分のプレーに集中できた。本当にうれしいです」日本女子プロゴルフ協会の樋口久子会長、サッカー元フランス代表ジダン氏から祝福を受ける。君が代が流れた表彰式。上田、宮里美ら後輩に見守られながら、感激に浸った。

 夢への道のりは最後まで険しかった。ハーフターン時は単独首位も、終盤はパットが入らない。最終18番で2・5メートルのバーディーパットを沈め、通算14アンダーで抜け出しても、グスタフソンに追いつかれる。そんな忍耐力を試される展開の中に、勝利への執念を見せた。プレーオフ1ホール目の18番パー5。珍しくドライバーを思い切り振り、果敢に2オンを狙った。球はバンカーに入ったが、第3打はピンそば1メートルにつける。重圧のかかったグスタフソンのバーディートライが外れ、宮里はバーディーパットを冷静に沈めた。

 「4年はあっという間だった。これがわたしの初優勝への道だったと思う」。屈辱的な挫折を乗り越え、ようやくつかんだ栄冠だった。05年に日本で「藍ちゃんフィーバー」を巻き起こし、子どものころから夢だった米ツアー挑戦を決意した。予選会を2位に12打差をつける新記録でトップ通過しての参戦だった。

 順風満帆だったゴルフ人生に試練が訪れたのは07年8月だった。正確だったドライバーが、右へ左へ大きく曲がり始めた。「こんなことは初めて。まっすぐ行かない」。涙が止まらない日もあった。「もうゴルフできない」。自信をなくし、クラブを置くことすら考えた。

 支えは家族だった。父でコーチの優氏は、泣きながら「藍がやめたければ、無理しなくていいんだよ」と優しく肩を抱き寄せてくれた。米国まで駆けつけ、1球でもいい球が出ると「いいじゃないか」と励ましてくれた。極秘で沖縄に帰ると、母豊子さんもサーターアンダギーを作ってくれた。プロゴルファーの2人の兄も、いつもジョークでいやしてくれた。

 傷だらけの心は徐々に修復され、夢をかなえるための強い意志も復活。元女王ソレンスタムも師事したピア・ニールソン氏から精神面の指導を受け、スイングの細部にこだわらず感性を重視した。100ヤード以内の小技を磨いた。今大会4日間の平均パット数27・25は1位。感性を最大限にいかし、ようやく米ツアーを制した。

 大きな壁を打ち破り、次のステップへと進む。今日27日には30日開幕の全英女子オープンの会場ロイヤルリザム&セントアンズで練習ラウンドする予定だ。「来週のメジャーへ、1日で気持ちを整理して臨みたい」。77年全米女子プロを制した樋口久子以来のメジャー制覇へ、自信を胸にフランスから英国へ渡る。

※記録と表記は当時のもの