渋野日向子(20=RSK山陽放送)が、日本勢では1977年の樋口久子以来男女通じて42年ぶり2人目のメジャー優勝を達成し、20年東京オリンピック(五輪)出場に大前進した。首位から出て7バーディー、1ボギー、1ダブルボギーの68で回り通算18アンダーの270。リゼット・サラス(米国)と並んだ最終18番で、劇的な5メートルのバーディーパットを沈めて激戦を制し、賞金67万5000ドル(約7200万円)を獲得した。五輪出場は世界ランクに基づき、各国上位2人(15位以内なら最大4人)に与えられる。大会前は同ランク46位だったが、一夜明けた5日(日本時間6日未明)に発表された最新の同ランクで、日本勢では同ランク10位畑岡奈紗に次ぐ五輪圏内の14位に入った。

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これは夢か、現実か。男女を通じ日本勢42年ぶりのメジャー優勝が決まっても、渋野に涙はなかった。そこには、いつもの「スマイル・シンデレラ」がいた。

世界のメディアが集まった優勝会見。ここでも渋野節がさく裂した。「何で勝っちゃったんだ。いらんことをしてしまった」「プレーオフはしたくないから。(18番で)ロングパットになったら『わざと3パットします』とキャディーに言ったら『この野郎!』と言われちゃった」。だが、来年の東京五輪への思いを問われると真剣になった。

「この優勝でどれくらい(世界ランクが)上がるのか分からないけど、この順位だけで東京五輪は絶対に決まらない。まだ何カ月もある。気を緩めず、頑張るしかないと思っています」

国内ツアーですら実績のなかった昨年末は、世界ランク563位だった。この半年で国内初勝利を含む2勝を挙げ、517人をごぼう抜き。大会前は9位畑岡奈紗、26位鈴木愛、43位比嘉真美子に続く日本人4番手の同46位だった。米ツアー初出場初優勝でのメジャー制覇は史上初だ。

一夜明けた5日に発表された最新の同ランクでは、畑岡に続く日本勢2位の14位に急浮上。一気に世界の頂点へ駆け上がり、夢にまで見た東京五輪も手中にしつつある。

今回、五輪イヤーとなる20年米ツアーのシード権と、全英女子OPは10年、全米女子OPは5年の出場権まで獲得した。昨年は観客がまばらな国内下部ツアーが主戦場だったからか。まだ夢見心地なのか。すぐ実感がわくはずもなく、米ツアーへの出場意欲を問われると「全くないです」と即答。こう続けた。

「移動もだし、英語も話せない。絶対にストレスになるし、日本で成長して活躍したいです。(全英は)来年も出ないといけないですよね? 出ないといけないなら、それなら出ます。日本が大好きなんです」

昨年7月、西日本を襲った豪雨は、渋野の故郷岡山にも大きな被害をもたらした。出身の平島小は全棟が浸水。胸を痛め、試合どころではなくなった。故郷愛、日本愛は誰より強い。それゆえ国内ツアーから、東京五輪に挑みたい考え。多くのプロが憧れる米ツアー以上の思い。無垢(むく)な「シンデレラ」らしい。

近日中に帰国し、休む間もなく今週の国内ツアー、北海道meiji杯(9日開幕、札幌国際CC・島松C)に凱旋(がいせん)出場する。関係者は「疲れているはずなのに、早く日本で試合がしたいと言っている」。世界一を手土産に、日本でも再び、最高の「渋野スマイル」を見せる。

◆東京五輪出場資格 20年6月30日時点での世界ランク(ロレックスランキング)をもとに、決定する。同ランク15位までの選手で複数選手が入った場合は、各国最大4人まで。16位以下は各国2人(15位以内の有資格者含む)となる。大陸ごとに出場選手が不在の場合は、最低1枠は保障される。男女とも埼玉・霞ケ関CCで開催され、出場人数は各60人。男子は20年7月30~8月2日。女子は同8月5~8日に行われる。

<渋野激闘4日間VTR>

◆第1日 7バーディー、1ボギーの66で回り、6アンダーで2位発進となった。後半だけで10番からの3連続を含む6バーディーを奪うなど好発進した。

◆第2日 2番と3番でバーディーを奪い一時は首位タイに。4番でパットミスからボギーをたたくも、5番ですぐさまバーディーを奪い返した。後半では1バーディーのみだったが、4バーディー、1ボギーの69。首位と3打差の通算9アンダーで終え、優勝を狙える2位で折り返した。

◆第3日 前半1バーディー、2ボギーと苦しんだが、第1日と同様に後半だけで6つスコアを伸ばすバーディーラッシュ。7バーディー、2ボギーの67で通算14アンダー。2位と2打差の首位に浮上した。

◆第4日 前半はダブルボギーもあり1つスコアを落として一時首位の座を明け渡したが、得意の後半5バーディー。最終18番でバーディーを奪い、通算18アンダーとして悲願の優勝。

▽渋野が所属契約を結ぶRSK山陽放送(本社・岡山市)も、うれしい悲鳴を上げた。地元の選手を育てたい意向から、今年から契約。ヘッドカバーは同局のマスコットキャラクター「アレすけ」で、その映像が世界中に流れた。この日は同社のHPが混雑を極め、担当者は「たくさんアクセスを頂いた。会見ではアレすけの縫いぐるみを持っていたので、人気がでました」と話していた。