日本人で唯一出場の松山英樹(29=LEXUS)が、6位から65で回り、通算11アンダー、205で2位に4打差、単独首位に立った。

日本男子初となるメジャー制覇へ、大きな期待を背負い最終日に向かう。

マスターズの過去の日本勢の最高順位は伊沢利光と片山晋呉の4位。

マスターズは、男子ゴルフのメジャー4大会の1つ。アマチュアの名選手として知られたボビー・ジョーンズ(米国)らによって1934年に創設。毎年、同じコースで開催される唯一のメジャーで、優勝者には「グリーンジャケット」が贈られる。

オーガスタ・ナショナルGCの会員は同ジャケットを持参しており、優勝者には「名誉会員」の意味も込めて手渡される。

通常は前年優勝者から授与されるが、連覇の場合は会長など関係者から渡される。米フロリダ州にある世界ゴルフ殿堂にも飾られている栄誉あるジャケットで、米国では「グリーン・コート」と呼ばれる。

まだ、日本勢で誰も袖を通したことのない、この栄誉あるジャケットに最も近づいた1人が、09年の片山晋呉だろう。

2打差4位だった。その片山を巡り、こんなエピソードがある。

レジェンド片山への敬意と、松山への期待も込め、当時、今回の松山と同様に、優勝を存分に意識し第3日を終えた片山のこんな物語を、2009年4月13日付日刊スポーツから、復刻版でお届けします。

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5打差6位で3日目を終えた片山のもとに、マスターズと縁深い米国人が近寄ってきた。「グリーンジャケットのサイズを聞きたいんだけど?」。質問したのは、米テレビ局CBSで24年間実況アナウンサーを務めるジム・ナンツ氏(49)。そばにいた片山のマネジャーが「スモール」と答えると、ナンツ氏は笑みをこぼしてうなずいた。

グリーンジャケットは、マスターズ優勝者の証しとして、表彰式で手渡される。だが、CBSの放送時間内にひと足早い授与式がある。クラブハウス横の「バトラー・キャビン」で行われ、出席者は勝者に加え、前年勝者、オーガスタ・ナショナルGCのビリー・ペイン会長、そして実況のナンツ氏。同氏は片山の優勝を想定し、体のサイズを直接聞いたのだった。

ナンツ氏 86年から実況をやっているけど、これまで日本選手にグリーンジャケットのサイズを聞いたことはない。彼が優勝するとアジア選手の招待枠も、さらに広がるかもしれない。頑張ってほしい。

現地関係者の脳裏にも、優勝シーンが浮かぶほど、片山のゴルフは快調だった。6メートルを沈めた13番から3連続バーディーで、優勝戦線に食らいつく。初日に続いて公式会見に呼ばれると「(快晴の)天気のように最高な1日。気持ち良かった」と誇らしげだ。

8度目のマスターズ出場。コース入りした日は、じっとオーガスタの景色をながめ、ゴルファーとしての幸福を感じた。感謝の気持ちを込め、この日からキャディーバッグに「ありがとう」と書き込んだ。「好きな言葉なんです」と片山。メジャーでは4位に入った01年全米プロ以来のV争い。「あの時は実力と順位がマッチしない感じだった。でも、今はしっかり自分のゴルフを組み立ててきた中でのこの位置。ちょっと違います」。

日本人初のメジャー制覇、01年4位の伊沢を超える日本人最高位更新への期待がかかる。だが、本人は「順位は考えない。3日目を終えてこういう位置にいられるのが、名誉なこと。楽しんで、自分が攻めるだけ」と自然体。夢の世界一に手の届く場所で、最終日を迎える喜びに浸っていた。