松山英樹(29=LEXUS)はマスターズでなぜ勝てたのか? プロゴルファーで、沖縄大学でスポーツ心理学を研究する石原端子准教授(55)が、コース上で見せた松山の表情から、その要因を分析した。

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今回のマスターズで印象的だったのは、コース上での松山の表情だった。終始穏やかで、時折笑顔も見せた。ここ4年間、なかなか勝てないときは、厳しく、思い詰めた表情や怒りを押し殺したような表情を見せることが多かった。

石原 コース上での表情が、今回のマスターズ優勝に大きな影響を及ぼしている面は少なからずあると考えます。いい表情をしているということは、ゴルフを含め、何かがうまくいっていると思えるから。第3日までスコアを大きく伸ばし、最終日も優勝争いをリードする立場にいる。充実感と、前向きな気持ちが表情に表れたと言えます。

今年のマスターズでこれまでと違う点は、チーム松山に目沢秀憲コーチ(30)が加わったことだ。これまで1人でやってきた松山が、コーチをつけたことで、それまで1人で抱え込んでいたものから解放された。

石原 今年からコーチをつけ今まで自分1人でやってきた感覚を客観的に見る目が2つに増えた。会場でのコーチとの練習で測定器を使ってやっている場面があったが、自分の持っている感覚を数値に置き換え、確認する作業ができていたことが大きかった。数字に置き換えると概念が可視化でき、データが出て、コーチと松山選手がそれぞれの考えを確認し合う。そのあたりの作業がうまくいき始めたところと大会がぶつかった。それでチーム松山がうまく回り始めて、松山選手の表情も穏やかになった部分があると思う。いいタイミングでいいコーチに出会ったと思います。

松山が大きくスコアを伸ばした第3日と、優勝を決めた最終日は、ともにサンダー・シャウフェレ(米国)と回った。ともに初優勝をねらうライバルながら、シャウフェレは日本育ちの台湾人の母を持ち、日本語のジョークで松山を笑わせもした。

石原 同伴競技者に恵まれたことも大きな勝因。彼はナイスガイで、「グッドショット!」とか松山選手に声がけもしていた。同じ組の人にはなかなか言えない言葉。ライバルにそういうことが言えるというのは、厳しい戦いの中で、しっかり自分をコントロールできるトップアスリートだから。そんなすばらしい相手と回り、ときおりジョークで笑わせられたりして、組の雰囲気が良かったことも、松山選手の穏やかな表情につながったと考えられます。

そんな心理的要因に加え、最終日は、松山の集大成としての人間力が発揮されたとみる。

石原 フロントナインとバックナインで違った面が見られた。彼自身のこれまでの積み重ねが数値化され、うまく消化できたのがフロントナイン。これに対し、バックナインは未知数。これまでリーダーになったことがない松山選手が、あそこで崩れないで最後までやった。逃げたら絶対負けると分かっている状況で、ボロボロになっても逃げずに立ち向かったのは、ゴルフではなく人間力。それだけで戦い抜いた。大きな成功体験を得て、さらに強くなると思います。【取材・構成=桝田朗】

◆石原端子(いしはら・まさこ)1966年(昭41)1月13日、鳥取県東伯郡生まれ。由良育英高(現鳥取中央育英高)、鹿屋体育大では陸上の投てき種目で活躍。87年全米女子オープンでプレーオフに敗れ2位となった岡本綾子の活躍を見て、大卒後ゴルフを始め、94年プロテスト合格。95年の下部ツアー、RNCレディース・ハリマカップ優勝。98年のフジサンケイ・レディースでツアー初優勝。賞金ランクはその年の41位が最高。競技の一線から退いた後、大体大大学院から沖縄大で准教授。スポーツ心理学やイップスを研究する。