笹生優花(19=ICTSI)が、全米女子オープンで日本人女子3人目のメジャー優勝を果たした。7日付の最新世界ランキングでは、前週の40位から9位に急浮上。初のトップ10入りを果たした。優勝賞金100万ドル(約1億1000万円)を加え、今季の賞金ランキングは、メンバー入りしたばかりの米女子ツアーで、リディア・コ(ニュージーランド)を2位に退け、いきなりトップに躍り出た。

77年全米女子プロ選手権で、樋口久子(75)が男女を通じて日本人で初めてメジャーを制した。その樋口はツアーを離れて久しいが、笹生が全米女子オープンを制したことで、第一線に日本人メジャー女王が同時に2人もいるという、新たな時代に突入した。もう1人はもちろん、19年AIG全英女子オープンを制した渋野日向子(22=サントリー)だ。

実は渋野と笹生は、はた目から見ても非常に仲が良い。ある時、渋野がパッティング練習していると、笹生は邪魔しないようにそっと近づいてくるが、その様子に気付いた渋野がツッコミを入れて2人で大爆笑。また新型コロナウイルスの影響で、開催時期がずれた昨年の全米女子オープンでは、笹生が優勝争い真っただ中の渋野に、パンの差し入れをして癒やす場面もあった。渋野は首位から最終ラウンドに臨む予定だった12月13日、雨でスタートできないまま、クラブハウスで3時間も待ちぼうけ。そこへ笹生が、ブルーベリーとピーナツバターのパンを持って現れた。

結局、その日は試合が再開されず、最終ラウンドは翌日に持ち越された。渋野は「笹生優花が、おいしいパンを持ってきてくれて、それを食べながら、みんなで楽しくおしゃべりしていました」と、笹生も含めた日本人選手で集まって談笑。優勝争いの緊張感から解き放たれた。いつ試合が再開されるか分からないまま、3時間を1人でモンモンと過ごし、精神的なスタミナを消費するのと、逆に楽しい時間としてエネルギーをチャージできたように感じて過ごすのでは、心身の疲労度はまるで違う。結局、渋野は翌日に仕切り直しとなった最終ラウンドで4位に終わったが、笹生の気遣いに感謝していた。

笹生は、その時のことを「米国にしかない甘くて、おいしいパンです。『これ、おいしいですよ』って言って、渡しました。特別に買ってきたものではなくて、選手やキャディーさん用に用意されていたもの。バナナとかを取りに行った時にあったので。みんなで食べました」と振り返った。2度目のメジャー制覇に迫った渋野を「すごいなと思ったし、頑張ってほしいという気持ちもあった」と、応援していた。

フィリピンで生まれ、4歳で日本に来た時に、日本語をうまく話せず、疎外感を覚えたという。8歳にして将来プロになることを決意し、再びフィリピンに行ってからは、ゴルフ漬けともいえる生活となった。そんな笹生にとって、渋野は出会ったことのないタイプだったのかもしれない。個人主義の欧米とは違う。メジャーの大舞台でも、中断の合間に井戸端会議を始めてしまう、渋野の日本人らしいところ、肝の据わったところ、すぐに仲間として輪の中に招き入れてくれる度量の大きなところ。そこに引かれていっても不思議ではない。

1月に笹生をインタビューした際、渋野について聞いたことがあった。当時はもちろん、渋野の方が実績で何段階も上を行っており、今後の良い目標になるかたずねると「自分は誰かを超えないといけないとかは、あまり考えていないですね。ゴルフはコースとの戦いなので。コースとの戦いの方が楽しい。でも先輩として尊敬しています」と、落ち着いて話していた。渋野のことは、純粋に姉のように慕っている印象だ。

4月に米ハワイで行われた、米ツアーのロッテ選手権では、第1日を終え、主催者推薦で出場の笹生が首位に立った。渋野も4打差の14位と好発進。同大会の2週間前に、オーガスタ・ナショナル女子アマチュア選手権で、兵庫・滝川二高3年の梶谷翼が優勝し、前週には男子メジャーのマスターズで松山英樹が優勝。米国での日本人3連勝の気運が高まっていたが、渋野は「優勝争いは、笹生優花に任せます」と話し、大笑いしていた。笹生がいたことで、より表情が明るくなったことがあった。

男子の松山を含め、日本人のメジャー覇者が、同時期に何人もいる状況など、ほんの3、4年前には、多くの人が予想できなかっただろう。複数人いることによる化学反応、後進への影響は、さらに予想のできない未来をつくり出すかもしれない。

松山はマスターズで優勝した際に「今までは『日本人にはできないんじゃないか』という考えがあったと思う。初めてのメジャーチャンピオンになって、そこを覆すことができた」と話していた。日本人にもできる-。笹生の優勝で、一段とその思いを強くした子どもたちは増えたかもしれない。渋野と笹生が談笑する姿は、これまで以上に、まぶしく映るだろう。現在、女子の世界ランキング1~3位は韓国勢が独占。将来、日本ゴルフ界が韓国同様に黄金期を迎えるための分岐点が、まさに笹生の全米女子オープン優勝であり、渋野と笹生のメジャー女王2人が米ツアーなどで共演する、これからなのかもしれない。【高田文太】