東京五輪銀メダルの稲見萌寧(22=都築電気)が、首位に1打差の2位から8バーディー、ノーボギーの64で回り、通算19アンダー、269の大会新記録で国内メジャー初制覇を果たした。今季全選手最多の8勝目で、賞金ランキングでも唯一の2億円突破で初めて首位に浮上。宮里藍(20歳63日)に次ぐ2番目に若い22歳45日での通算9勝到達など、記録ずくめの完勝劇となった。

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文句なしの力を見せつけ、稲見が悲願の国内メジャータイトルを手にした。最終18番でウイニングパットを決めると両拳を突き上げ、宮崎晃一キャディーとグータッチ。「一番の目標にしていた国内メジャー優勝を達成できてうれしい。ティーショット、セカンドショット、パター、全てが良かった」と笑顔で語った。

勝負強さが光った。首位に1打差で発進し、序盤は最終組で共に回った前日首位の西郷、同スコアだった大山も食らいついた。8ホール目までは全員がノーボギー。しかし9番で大山、11番で西郷がボギーとするなど崩れ始めると、一気にギアを上げた。9番から3連続バーディーで引き離しにかかると、13番、16番でもバーディー。2日連続の全選手最高スコアとなる64をたたき出し、終わってみれば大会新記録を1打更新する通算19アンダー、269。2位の西郷とは4打差と寄せ付けなかった。

昨夏からの今季で8勝を積み上げ、今年だけで7勝。2003年の不動裕理のシーズン最多10勝にも迫る。22歳45日での通算9勝目は、宮里藍(20歳63日)に次ぐ2番目の若さだ。「1年でここまで勝てるのは想像していなかった。少しずつレベルアップしている感じはある」。国内メジャーは賞金も高額で通常のほぼ2倍の3600万円。獲得総額は2億572万9149円となり、小祝さくらを抜き初めて首位に立った。

2億円突破は、15年に賞金女王となったイ・ボミ以来の快挙。ローアマに輝いた15年ゴルフ5レディースでは、そのイ・ボミが優勝者で、表彰式では一緒に記念撮影に収まった。「初めて知ったので感想は出ないけど、ボミさんはみんなのアイドル。私も好きなスーパースター。今日もコースですれ違った時に手を振ってくれました。これからも頑張っていきたい」と力を込めた。

ハイペースで勝利を重ね、今季の1つの目標としてきた通算10勝はもはや時間の問題だ。ここまで勝利をあげても祝勝会などを行ったことなく、今回も翌日は変わらず練習へと向かう。

「私は完璧主義者で、何勝とかのレベルではなく、何をやっても60台しか出ないとか、全てが完璧になるようにしたい」

「夢」と掲げるのは、永久シード権を得られる通算30勝。常に先を見定める稲見は、ストイックに淡々と、これからも勝利を積み重ねていく。【松尾幸之介】

 

◆ナゼ強い? 稲見は今季、平均ストロークやパーオン率でトップに立つなど、ほぼ全ての項目で10位以内に名を連ねる。だが唯一芳しくないのがドライビングディスタンスだ。トップの原英莉花よりも約20ヤード短い239・25ヤードで34位。関係者によると「飛ばないわけではない」。そこに稲見なりの戦略がある。

一番の持ち味は「絶対距離感」とも言われるアイアンショット。その精度を生かすため、プロ入り直後からドライバーの長さを短くし、距離よりも精度をとるようになったという。フェアウエーキープ率が上がれば、セカンドショットにも余裕が生まれ、持ち前のショット力でバーディーチャンスにつけやすくなる。加えて弱点だったパッティングの改善に取り組み、スコアが向上。東京五輪でもドライバーでは同組の海外選手に50ヤード差をつけられることもあったが、その後のマネジメントで挽回した。

最終日は平均ディスタンスは31番目ながら、最高スコアの64をマーク。自身の特長を生かした効果的な戦略が、躍進へとつながっている。

 

◆強すぎるがゆえ… 稲見は今大会の優勝で国内ツアーの3年シード権を手に入れた。すでに東京五輪の銀メダルで5年シード権を持ち、これで合計8年間かと思いきや、日本女子プロゴルフ協会の規定によると、同一年度に得た複数年シード権は1つしか行使できない。年数の長い5年シード権の行使は当然で、今回の3年シードは水の泡になる。獲得年度が違えば組み合わせ利用も可能だが、同一年度に大活躍した選手には厳しいルールとなった。なお、同一年に国内メジャー2勝かつ賞金女王達成で7年シード権、同3勝かつ賞金女王達成で10年シード権が付与される。稲見は残る国内メジャー2戦の結果次第では、5年を越えるシード権獲得もありそうだ。

 

◆03年不動裕理の年間10勝と稲見の優勝ペース比較 不動が史上唯一シーズン10勝を挙げた03年は、30試合が行われた。うち不動は25試合に出場。試合数に対しては3試合に1度、出場試合に限れば2・5試合に1度のハイペースで優勝した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、全14試合に激減した昨年は今年とシーズンが統合された。稲見は今大会で、20-21年シーズンとしては41試合目で8勝目、今年は27試合目で7勝目。シーズンでは5・13試合に1勝、今年は3・86試合に1勝ペースとなった。残り11試合で、稲見が03年の不動を上回る優勝ペースになるには、シーズン平均なら10勝の上積みが必要と極めて厳しい。だが今年の平均なら、6勝の上積みで逆転と現実味が増す。21年の稲見が“歴代最高勝率”となるか注目される。

 

◆稲見萌寧の優勝クラブ

▼1W=キャロウェイ マーベリックサブゼロ(シャフト=USTマミヤ ジ・アッタス5、硬さS、ロフト10・5度)▼3W=ダンロップ スリクソンZX(15度)▼ユーティリティー=ダンロップ スリクソンZX(3U19度、4U22度、5U25度)▼アイアン=5I~PW=テーラーメイド P770▼ウエッジ=タイトリスト ボーケイSM8 52-08F(52度)、同SM8 58-08M(58度)▼パター=テーラーメイド トラスTB1▼ボール=ブリヂストン TOUR B XS

 

◆稲見萌寧(いなみ・もね)1999年(平11)7月29日、東京・豊島区生まれ。9歳でゴルフを始め、12年関東小学生選手権、14年関東中学生選手権、15年東日本パブリックアマ優勝。ツアーは15歳で出場した15年中京テレビ・ブリヂストン10位、16年三洋電機レディース8位。18年プロテストに高卒で1発合格。19年のセンチュリー21レディースで初優勝し、通算9勝。今夏の東京五輪では2位。166センチ、58キロ。