10日まで行われた国内女子ゴルフツアーのスタンレー・レディースで、渋野日向子(22=サントリー)が686日ぶりに優勝した。

涙あり、笑顔ありと、これまでの苦労や努力がにじみ出つつ、渋野らしい明るさに満ちた優勝だった。そしてこの優勝をすぐに祝福したのが、今季8勝で賞金ランキング1位の稲見萌寧(22=都築電気)だった。

稲見は自身のインスタグラムに、渋野との2ショット写真を投稿した。そこには、こうも記されていた。「もう最高! おかえり! あなたが1番似合う場所 かっこよすぎる だいすきよ!!」。昨年優勝したこの大会を、稲見はディフェンディングチャンピオンとして迎え、自身初の同一大会2連覇を目指したが8位。渋野ら4人で行われたプレーオフ進出には、3打足りなかった。そんな悔しさが残る中で、ほどなく渋野を祝福した。しかもその祝福は、1学年上の渋野への尊敬、愛情にあふれていた。

渋野と稲見が同組で回った時、何度か見かけたシーンがある。渋野がバーディーを取った後のこと。一呼吸置いてから近づいてきた稲見が、右手なり左手を静かに差し出してグータッチ。当たり前の儀式なのか、特に会話もなく、自然な流れで行っていた。大げさに祝福するわけでもなく「さすがです」とばかりの、さりげない動き。逆に渋野が近づいて、バーディーを取った稲見とさりげなく交わすこともある。互いの実力を認め合い「あなたにとっては、そのぐらい当然だけど」と言わんばかりのグータッチ。華やかな印象のある女子ゴルフ界において珍しく、2人がそろうと職人の世界のような雰囲気が漂っていた。

9月の住友生命レディース東海クラシック第1ラウンドで、同組で回った際、渋野はあらためて稲見の技術の高さを口にしていた。「本当にお手本。すごく差を感じた。簡単じゃないのに、簡単に見える。モネにしかできないゴルフ」。絶賛だった。さらに「もうメンタルって言葉は必要ない。う~ん“仏”かな。悟りを開いたような」と、精神面でも高いレベルにあると、現在最強ともいえる稲見を褒め続けた。

先に結果を出したのは、19年に全英女子オープンなど日米5勝を挙げた渋野だった。それを追って今年、稲見は国内ツアーで優勝を重ね、東京五輪では銀メダルを獲得。ともに日本人女子ゴルファーのレベルの高さを、世界に示した存在だ。渋野はなかなか勝てない時期が続いたが、3戦連続トップ10入りの後に復活優勝。紆余(うよ)曲折を経て、ともに紛れもなく日本を代表する選手となった。来季の主戦場は、渋野が米国、稲見は国内となる可能性が高い。主戦場が変わっても、2人の切磋琢磨(せっさたくま)の物語が、これから本格的に始まるのではないかと、思わずにはいられなかった。【高田文太】