滋賀・琵琶湖CCで行われた日本オープン最終日の17日。午前7時46分からアマチュア中島啓太(21=日体大3年)がスタートした。

57位で、最終組が正午スタートと時間はたっぷりあったので、18ホール全部ついて回った。11時過ぎに上がって、中島の話を聞いて歩数計を見たら約1万5000歩で約11キロ。「一服して、最終組でも…」と特設されたプレスルーム横で一服していたら、前を横切るカート道をマスク姿の青年が歩いてきた。

「お疲れさまです」

中島君? 何してんの?

「ギャラリーしてきます」

はあ?

「最終組を見ます」

首位ノリスと5打差2位の小平か…って、ついて行くの?

「はい」

そう言って頭を下げ、楽しそうに歩いていった。選手は一般人とは違う。1ラウンドしても、たいして疲れないかもしれない。それでも、中島の最近と今後のスケジュールを考えると「おいおい…」と笑ってしまった。

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直近の1カ月は…。

9月12日の週は大学の試合があり、5日間で9ラウンドした。

翌週23日開幕のツアー競技パナソニックオープンでアマチュア優勝の快挙を達成。この2週は連日ラウンド前に、24時間オープンのジムなどでトレーニングを課していた。

30日開幕のバンテリン東海クラシックに出場したが、第2日のスタート前に腰痛で途中棄権した。第1日は2オーバーの73位だったが、まだ巻き返しはきいた。スタート前のトレーニングこそ取りやめたが、前週からの“全ホール・ドライバー”というテーマは継続。「今日はすごく自信が持てました」とご機嫌だったにも関わらず、棄権したのは、それだけ腰の状態が悪化したから。その後、約10日の休養とリハビリを経て迎えたのが、日本オープンだった。

で、今後の予定は…。

21日から日本開催の米ツアー・ZOZO選手権に推薦出場する。

翌週は団体戦の信夫杯日本大学選手権(28、29日)があり、前日練習を含めて3ラウンドする。そのまた翌週はUAE・ドバイに飛び、いよいよアジア・パシフィック選手権(11月3日開幕)。来春のマスターズ出場権が得られる優勝を目指す大一番となる。

いくら若い21歳とはいえ、これだけ密な日程は過酷だ。初体験の上、腰に不安を抱えているのだから。その上、ナショナルチームのメンバーとして日本ゴルフ協会(JGA)主催の日本オープンはとても特別な大会。ZOZO選手権はアマチュアで主催者推薦をもらった責任がある。誤解を恐れずに言えば、少しは気を使わずに済むのは信夫杯か。実際のところ、ナショナルチームのガレス・ジョーンズヘッドコーチ、日体大ゴルフ部監督も「無理はしないように」と気を使ってくれているらしい。しかし、ゴルフ部の仲間と一緒に戦うのだ。「真面目」を絵に描いたような彼が、手を抜くとは思えない。

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「たくさんチャンスをいただけて幸せです。腰が痛くても、しっかりケアをしながら頑張ります。ZOZOの後、2日ほど休めますから」。中島はそう話した十数分後、マスク姿で1人、最終組のギャラリーに紛れていった。

国内ツアー史上5人目のアマチュア優勝を果たし、勢いに乗る今は、ゴルフ人生において最大級の成長期に入ったのかもしれない。向上心、好奇心も尽きることがない。すばらしいと思う。しかし、さすがに一言、ツッコみたい。「ゴルフ、どんだけ好きやねん!」と。【加藤裕一】