ゴルフがうまくなりたい-。プロとして競技に集中できる環境を求め、渋野日向子(23=サントリー)は今季から米ツアーに本格参戦した。思い描いた通り、練習に没頭できる環境は、作陽高時代に田渕潔監督が経営する、岡山・勝央町の緑ケ丘練習場で打ち続けた日々を思い起こさせた。予選落ちを重ねても、決勝ラウンドの裏で会場に足を運び、練習の虫と化した原点回帰が復活につながった。

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「見てください。これですよ! そりゃあ、練習しちゃいますよ」。6月の今季メジャー2戦目、全米女子オープン開幕直前。米ノースカロライナ州のパインニードルズGCのドライビングレンジ(打撃練習場)で、渋野は広大な敷地を指さして笑顔を見せていた。限りあるスペースで、ドライバーショットの弾道、行方が、ネットに遮られて確認しきれないことはない。打席数も無数にあり、他の選手に気を使って場所を譲る必要もない。目いっぱい練習できる環境が、徐々に復活の足場を固めていた。

連続予選落ちとなった7月の今季メジャー4戦目、フランスでのエビアン選手権からの、欧州遠征も練習漬けだった。同選手権は開幕5日前に現地入り。予選落ち後も、優勝が決まる最終日に、コースでの歓声を遠くに聞きながら、黙々と打ち続けた。翌日には英国入りし、早速、前戦スコットランド・オープンの会場で練習。ここでも予選落ち翌日、第3日が進行中の会場で練習した。最終日にあたる7月31日には、今大会の会場となったミュアフィールドに足を運んでいた。今大会前8戦は予選落ち6度、棄権1度。決勝の舞台を踏めなくても、練習に没頭できる環境を生かし、復活の糸口を探していた。

自分で課題を見つけ、練習に打ち込むのは、かつて通ってきた道だった。母校作陽高の田渕監督は「うちの高校は各自が練習メニューも量も決める。課題があれば好きなだけ打てばいい」という。同監督が経営する練習場は、ホームページに「ネットにかかることがないので、ごうかいなドライバーショットが打てる数少ない練習場です」と記されている。池に向かって、全部員が同時に打つこともできるほど打席数もある。まさに米ツアーで現在、渋野が味わっている環境と同じだ。無心で振り続け、成長を実感した高校時代。そんな原点への回帰が、復活への血となり肉となった。

米ツアーへの本格参戦する理由を渋野は「楽しいから」と語っていた。「純粋にゴルフに集中できる環境にある。めちゃめちゃ楽しい」。仮に今大会、メジャー2勝目を挙げていても変わらないスタイル。ゴルフがうまくなりたい-。高校時代も今も、同じ思いを貫き続けた結果の優勝争いだった。【高田文太】

▼19年8月 AIG全英女子オープン初出場初優勝。海外で「スマイリング・シンデレラ」と報じられるなど、一躍脚光を浴びた。

▼20年2月 出場予定だった米女子ツアーのタイ、シンガポールでの試合が、新型コロナウイルス感染拡大の影響からキャンセル。その後、青木翔コーチとスイング改造に着手も、結果がなかなか出なかった。

▼同12月 コロナの影響から変則開催された全米女子オープンで4位。再び国内外で注目を集めた。年末に青木コーチの元を離れる。オフから1人でスイング改造に着手する。

▼21年10月 スタンレー・レディースでプレーオフを制し、19年11月の大王製紙エリエール・レディース以来、約2年、686日ぶりの復活優勝。2週後の樋口久子 三菱電機レディースもプレーオフを制しV。

▼22年4月 今季メジャー初戦、シェブロン選手権で4位。

▼同6月 全米女子プロは予選突破も、第3ラウンド前に体調不良で棄権。

▼同8月 AIG全英女子オープンはショップライト・クラシック(6月10~12日)以来の予選突破。直近は2戦連続予選落ちしていた。