1億円突破の秘密は、人間離れした「柔らかい肩」にあった。日立3ツアーズ選手権から一夜明けた14日、石川遼(17=パナソニック)が千葉・キングフィールズGCで開催されたジュニアレッスン会で驚異の肉体を初披露。両手を腰に当てた状態から、両ひじを約100度前方に曲げてみせ、一緒に参加した古閑美保や片山晋呉まで驚嘆させた。夏以降に取り組んできた肩の可動域を広げるストレッチの効果で、本人も「飛距離が出る」。後半戦の躍進を支えたロングドライブの秘訣(ひけつ)を明かした。

 「ゴルフに役立つストレッチは?」。子どもから質問された石川は、イスから立ち上がった。次の瞬間、衝撃的な肉体が披露された。両手の甲を腰につけて両ひじを前方へ突き出すと、まるで肩関節が外れたように両腕が内側に曲がっていった。両ひじが体の前で着きそうになると、クラブハウスは仰天の「エーッ」の声に包まれた。

 人間離れした石川の肩の柔らかさに、驚いたのは参加した46人の子どもたちだけではなかった。この日はジュニア選手のレッスンのため日立3ツアーズ選手権の出場15選手も参加していた。降雨のため急きょトークショーになった。後方にいた古閑は思わず「え~、キモい」と叫んで、笑顔をひきつらせた。自分でも試してみたが、まったく曲げられずにもん絶。その横で石川は「みんな変わらない(曲がる)と思ってました」と涼しい顔で言った。

 この「驚異の肩」こそ、1年目で賞金1億円突破という偉業の原動力だった。実は今夏以降、連戦の疲労を取り除き、肩の可動域を広げるために「肩ストレッチ」を取り入れた。「(肩の)可動域が狭くなるのを避けて、本来持っていた優れた柔軟性を保つために始めました」(仲田健トレーナー)。早朝に会場入りし、ショット練習の前に約20分間、毎日取り組んだ。「汗が出てくるまでストレッチしていました」と石川は明かした。

 もともと小学生時代から父勝美さん(52)の指導で、体の後ろで上下に両手を組むストレッチを練習に通う車内で繰り返していたという。仲田トレーナーは「最初は90度いくかいかないか。それが今では90度以上曲がるようになりました」。子どものころから積み上げてきた下地に、本格的なストレッチを導入したことで、柔らかい肩はさらに柔らかくなった。

 効果は10月のツアーから出た。日本オープンで2位に入り、11月のマイナビABC選手権でプロ初優勝を飾った。同月のダンロップフェニックスでも2位に入るなど、一気に賞金ランクを駆け上がった。肩の柔らかさはスイングに大きく影響する。疲労の中でも肩の可動域が狭くならず、飛距離が保てたことが好調の要因でもあった。

 肩ストレッチを披露した後、石川は「毎日続ければ、肩の動く範囲も大きくなってスイングアークも大きくなる。飛ぶようになります」と子どもたちに訴えた。刺激を受けたのはプロも同じ。矢野東は「すごいな、やらなくちゃと思った」、片山は「これやろう」とトークショーの最中に早速取り組んでいた。

 今オフ、石川はさらなる肉体改造に着手する。週1回だった筋トレを4回に増やすなど、昨オフの約2倍の体力強化に取り組む。一方で肩回りに筋肉がついても、柔軟性が阻害されないようにストレッチにも力を入れる。「ギネスブックなんか見るとすごいじゃないですか。まだまだ柔らかくなると思う。ツアーの中で一番体の柔らかいプレーヤーになりたい」。石川がギネス級の「柔らかい肩」で、来年は世界を目指す。【阿部健吾】