<女子ゴルフ:サマンサタバサレディース>◇最終日◇22日◇茨城・イーグルポイントGC(6535ヤード、パー72)◇賞金総額6000万円、優勝賞金1080万円

 プロ5年目の木戸愛(22=ゼンリン)が5バーディー、1ボギー、1ダブルボギーの70で回り、通算14アンダー202でツアー初優勝を飾った。2位と4打差の単独首位でスタートも、中盤パットのリズムが崩れ、不動裕理(35)申ジエ(24)に追いつかれた。だが後半見事に立て直し、4バーディーで後続を突き放した。がっぷり四つの優勝争いを制しての初日からの完全Vで、実力を証明。今後への期待も高まった。

 もうリズムは崩れなかった。18番パー4。木戸は7メートルのバーディーパットに、いつも通りのルーティンで臨んだ。2度素振り。左手でパターのフェースをぬぐう。構えに入る。1度ラインを目で追い、ゆっくりとしたストロークでボールを押し出す。よどみない動作で放ったパットは、カップ横50センチにピタリとついた。

 パーパットをタップインさせると、涙があふれ出した。「最後のパットを決めるまで、優勝は確信できませんでした」。東北高の先輩、有村智恵に抱きしめられると再び号泣。「強かったね。本当に強かった」と声をかけられたが、すぐには言葉を返せないほどだった。

 1度はリズムが崩れきった。きっかけは6番パー4。2メートルのバーディーパットを「時間をかけすぎて外してしまった」。ここから素振りの回数、フェースをぬぐう回数が、パットごとにバラバラになった。構えに入っても、動作までに約3秒もかかった。

 実力者相手の優勝争いの重圧も、手の動きにブレーキをかける。7番で3パットのボギー。8番では1メートルのバーディーパットまでもカップに蹴られた。「緊張のピーク」と振り返る9番パー3では、右の林に打ち込みダブルボギー。スタート時点の4打のリードは、この時点で消滅した。

 「でも最終組のバックナインで、不動さんと並んでいることが幸せに思えたんです」。考え方1つで、気持ちは前向きになった。大事MANブラザーズバンドの名曲「それが大事」を口ずさみながら、10番ティーに向かう。そして10、11番と連続バーディー。14番で4メートルのバーディーパットを決めた時には、リズムは完全に元に戻っていた。

 15番で全が、18番で不動が、木戸に追いつこうと勝負に出ては、ミスから脱落した。真っ向勝負を制しての初優勝は、尊敬する上田桃子の「優勝争いの中でこそ強くなれる」という教えを体現したものになった。身長172センチ、股下84センチ、8頭身のモデル級ルックスと、実力を兼ね備える大器。ゴルフ界待望の新しいスターが、ついに飛躍の時を迎えた。【塩畑大輔】<木戸愛アラカルト>

 ◆身体能力

 1989年(平元)12月26日、神奈川県横須賀市生まれ。愛と書いて「めぐみ」と読む。172センチの長身に、父譲りの身体能力を秘める。幼少時はピアノなどもたしなんだが、父によると「水泳は本当に得意だった。やっぱりスポーツ向き」。

 ◆名門育ち

 ゴルフ歴は10歳から。親元を離れ、宮城・東北高にゴルフ留学。2学年上の有村、原や1学年下の大江らとともに、高校選手権団体で2回優勝。宮里藍の時代から続く5連覇だった。卒業後、08年にプロテストに合格した。

 ◆飛躍の年

 11年に賞金ランク49位に入り、初のシード権を獲得。12年に地図情報会社国内最大手のゼンリンと所属契約。森永製菓・ウイダーとサポート契約も結び、トレーニングやマッサージなどの肉体ケアも受けるようになった。

 ◆ショット

 長身を生かして打ち込むアイアンが武器。使用モデルは藤本佳則や東北福祉大3年の松山英樹と同じ、スリクソンZ725。スピン量とボールの高さで、グリーンをピタリととらえる。この大会直前の時点でパーオン率はツアー7位の70・74%。