「よっちゃんのテニス塾」と題し、テニスのコラムを書くことになった。テニスという競技が、錦織圭の活躍で、ここまで来たのかと思うと、20年以上、テニス担当記者をやってきて驚くばかりだ。一過性ではなく、できれば末永くおつきあいできればと願う。

 今年から、錦織のためにテニス一極集中担当となったが、昨年までは体操、卓球、バドミントン、フィギュアなど、五輪にまつわる多くの競技を担当してきた。他の競技を取材する同僚たちが、テニスを取材して驚くのは、テニス選手たちの報道陣への対応だ。受け答えがきっちりしているというのだ。

 テニスには、他の競技で見られるミックスゾーン(ミックス)という発想がない。ミックスとは、試合後、引き上げる導線で報道陣に対応するもの。つまり立ち話だ。試合直後ということもあり、なかなか言葉が弾まない。最近、男子ツアーがミックスを採用しているが、試用段階で、テニスの報道陣対応のメーンは会見だ。

 テニス選手は、報道陣からの要請があると、試合の勝敗に関係なく、会見を拒否できない。拒否すると、世界ランクによって違うが、1~10位の選手は2万ドル(約210万円)の罰金を科される。プロとして、報道陣への対応は義務という発想だ。

 会見になれば、座って報道陣の質疑に対応する形となり、4大大会の優勝会見などは20分ほどかかる。それも、最初は英語で行われ、その次が選手の母国語。4大大会で決勝に進めば、これを1大会で7回こなすことになる。開幕前には事前会見も組まれ、報道陣に話をすることは必須なのだ。

 日本のテニス選手も例外ではない。それを当然と受け止めて世界のツアーを転戦しているから、求められれば話をする癖が付いている。しかし、会見が義務なだけに、日本特有のぶら下がり(選手が移動する際に、一緒に歩きながら話をする取材方法)などは禁止だ。

 日本だけでなく、世界からも話を求められる錦織も、英語と日本語で会見をこなす。ただ、在米10年以上の彼であっても、英語と日本語の回路は違うようで、日本記者が英語で質問をしたりすると回路の切り替えができず戸惑ったりするのがおもしろい。

 ◆吉松忠弘(よしまつ・ただひろ)80年代から一貫して五輪担当。テニスは87年から4大大会を中心に取材。不遇の日本テニスどん底時代を知っているだけに、今の錦織人気には戸惑うばかり。