2020年東京五輪公式エンブレムをデザインしたアートディレクター佐野研二郎氏(43)が手掛けたサントリービールのキャンペーン賞品の一部を取り下げた問題で、佐野氏が14日、代表を務める事務所の公式ホームページ(HP)で「事実関係を調査した結果、デザインの一部に関して第三者のデザインをトレース(描き写し)していたことが判明した」と明らかにし、謝罪した。一方、東京五輪公式エンブレムについては「模倣は一切ないと断言していたことに変わりはない」としている。以下、佐野氏のHP全文。

 今回取り下げた8点のトートバックのデザインについては、MR_DESIGNのアートディレクターである私、佐野研二郎の管理のもと、制作業務をサポートする複数のデザイナーと共同で制作いたしました。そして、誠に遺憾ではありますが、その制作過程において、アートディレクターとしての管理不行き届きによる問題があったと判断したため、今回の取り下げという措置をお願いした次第です。

 今回のトートバックの企画では、まずは私の方で、ビーチやトラベルという方向性で夏を連想させる複数のコンセプトを打ちたてました。次に、そのコンセプトに従って各デザイナーにデザインや素材を作成してもらい、私の指示に基づいてラフデザインを含めて、約60個のデザインをレイアウトする作業を行ってもらいました。その一連の過程においてスタッフの者から特に報告がなかったこともあり、私としては渡されたデザインが第三者のデザインをトレースしていたものとは想像すらしていませんでした。しかし、その後ご指摘を受け、社内で改めて事実関係を調査した結果、デザインの一部に関して第三者のデザインをトレースしていたことが判明いたしました。

 第三者のデザインを利用した点については、現在、著作権法に精通した弁護士の法的見解を確認しているところですが、そもそも法的問題以前に、第三者のものと思われれるデザインをトレースし、そのまま使用するということ自体が、デザイナーとして決してあってはならないことです。また、使用に関して許諾の得られた第三者のデザインであったとしても、トレースして使用するということは、私のデザイナーとしてのポリシーに反するものです。

 何ら言い訳にはなりませんが、今回の事態は、社内での連絡体制が上手く機能しておらず、私自身のプロとしての甘さ、そしてスタッフ教育が不十分だったことに起因するものと認識しております。当然のことながら、代表である私自身としても然るべき責任は痛感しており、このような結果を招いてしまったことを厳しく受け止めております。今後は著作権法に精通した弁護士等の専門家を交えてスタッフに対する教育を充実させると共に、再発防止策として、制作過程におけるチェック項目を書面化するなどして、同様のトラブル発生の防止に努めて参りたいと考えております。

 また、過去の作品につきましても、問題があるというインターネット上のご指摘がございますが、その制作過程において、法的・道徳的に何ら問題となる点は確認されておらず、また権利を主張される方から問い合わせを受けたという事実もございません。お取引先の方々、そして権利等を主張される方からご連絡等があった場合には、引き続き誠実に対応させていただくつもりです。

 なお、東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムについて、模倣は一切ないと断言していたことに関しましては、先日の会見のとおり、何も変わりはございません。東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムはMR_DESIGNで応募したものではなく、私が個人で応募したものです。今回の案件とは制作過程を含めて全く異なるものであり、デザインを共同で制作してくれたスタッフもおりません。

 今まで関わった仕事はすべて、デザイナーとして全力を尽くして取り組んでまいりました。このような形で、応募されたお客さま、クライアントさま、そして関係者の皆さまには多大なご迷惑とご心配をおかけしたことを、大変申し訳なく思っております。今回頂戴したご批判を忘れることなく、デザイナーとしての今後の仕事、そして作品を通じて、皆様のご期待に全力をあげて応えていく所存です。

 2015年8月14日

 佐野研二郎