ついに勝った。歴史が変わった。長い間待ち望んだ大舞台に、ようやくたどり着いた。水球の男子日本代表は全勝対決となった地元中国との決戦に16-10で快勝。84年ロサンゼルス大会以来、32年ぶりに五輪切符を獲得した。地元有利の審判の笛に苦しむ場面もあったが、この時のために磨いた守備が機能。中国の猛攻を耐え抜き、歓喜を呼び込んだ。「弱すぎる」と予選出場さえ見送られた苦難の歴史を、鍛え抜かれたポセイドン(海神)たちが涙で塗り替えた。

 完全アウェーの仏山に、日本の歓喜の声が響き渡った。大本洋嗣監督(48)を抱きかかえてプールに落とした選手たちが、次々と飛び込む。志水主将、エース竹井、守護神の棚村らの涙がプールの水に溶け合った。

 開始直後から日本のペースだった。この試合のための「パスライン・ディフェンス」が機能した。フローターに集まるパスをカットし、速攻から竹井が、20歳の足立が次々とゴールした。第1ピリオドで6-2とリード。日本が速いテンポで主導権を握った。

 「予想通りだったし、怖いものはなかった」と大本監督。しかし、審判の笛はホーム寄りだった。次々とペナルティースロー(PS)をとられる。10失点のうち6点はPSで、日本は0。「それも含めて、選手ははね返してくれた」と、日本水連の原朗水球委員長は感極まった様子で話した。

 「やってきたことは、間違っていなかった」と志水主将は涙で言った。「聞いたこともないし、やったこともない」と志水主将。GK棚村も「GKにとっては最悪」と3年前の新戦術導入を振り返った。それでも「何十年も同じことの繰り返し。何かを変えよう」という監督についてきた。ボディービルダー岡田隆氏のメニューで肉体を強化し、合宿で食事管理も徹底。1日1万メートルの泳ぎ込みで、選手の心身は変わった。

 日本の球技では最も長い32年間のブランク。96年と08年五輪は「弱すぎる」と予選にも出られなかった。目標を失ってプールを離れた先人たち、その思いも背負ってポセイドンジャパンは歴史をつくった。「長い歴史がある。水球選手、応援してくれた人、すべてに感謝したい」と大本監督。志水主将は「これで子どもたちに夢を与えられる。僕が生まれるより前ですから」と32年前を思った。アウェーの中国で、水球が涙で新しい歴史を記した。

 ◆水球 GK1人を含む1チーム7人が、プール内のコート(30メートル×20メートル、水深2メートル以上)で相手ゴールを目指し得点を競う球技。試合時間は8分を4ピリオド(P)。両手で同時にボールを扱うと反則。ドリブルはクロールしながらボールを前に押し出すように行う。19世紀末に英国で考案され、欧米へ広まった。歴史的に欧州が圧倒的に強く、五輪金メダルはハンガリーが9個、イタリアと英国が4個で続く。