サンウルブズが開幕8戦目で、待望のスーパーラグビー初勝利を挙げた。同じく新規参入のジャガーズ(アルゼンチン)に、一時9点差をつけられながら36-28と逆転勝ちした。前節は17-92という惨敗を喫し、前日本代表ヘッドコーチでイングランド代表のエディー・ジョーンズ監督から「古い日本ラグビーに戻ってしまった」と酷評された。フッカー堀江翔太主将(30=パナソニック)が中心となってチームを立て直し、日本ラグビー史に新たな歴史を刻んだ。

 堀江は泣いていた。29-28と1点リードの後半39分。相手ゴール目の前で反則を得た。今季歯が立たなかったスクラムで、ぐっとこらえた。SOピシからパスを受けたCTB立川が守備の間を抜けポール間へ飛び込む。視界が少しかすむ。ノーサイドの笛は総立ちの観客の歓声にかき消された。試合後は「なんでもポジティブに考えて前に進もうとしてきました。劇的な勝利を日本で挙げられてうれしい」と、感慨深げにそう話した。

 専門のスクラムコーチが不在の中、堀江らが中心となり課題のスクラムを立て直した。スクラムを組むたびにスタンドに響く「ワオーン!!」という“オオカミコール”に背中を押される。両者合わせ逆転6度のシーソーゲーム。後半2本のトライはどちらもスクラムが起点だった。テンポの速い攻撃ラグビーを発揮し、W杯4位のアルゼンチン代表メンバーでほぼ固められた相手を破った。ロッカールームではメンバー全員、350ミリリットルの缶ビールを飲み干した。

 恩師の厳しい言葉を糧にした。前節の15日、チーターズに17-92という屈辱的な大敗を喫した。それも第3節では1点差の相手だ。ジョーンズ監督からは「古い日本ラグビーに戻ってしまった」「恥ずべきこと」と酷評された。堀江は「一からやり直すしかない」。パナソニックでも指導を受ける田辺コーチからは「今、沈んでしまったら(屈辱を受けた)意味がない。1度1点差の試合をした相手になぜ90点も取られるんだ。そんなチームじゃないだろう」とゲキが飛んだ。

 遠征中、堀江は自らの経験を説いた。「人のせいにしない」。13年と14年にレベルズ(オーストラリア)でプレー。負け続けたチーム内では選手がコーチを批判し始めた。するとコーチも選手を批判し、空中分解したチームは大敗した。それを知るだけに「苦しみに耐えて仲間を助けよう」と鼓舞し続けた。そんな苦労が報われたからこその涙。堀江と抱き合ったハメット・ヘッドコーチも「選手の努力が結果に出なかったのがつらかった。誇りに思う」とうれし涙をこぼした。

 熊本地震のため、入場の際に火を使った派手な演出は控えられ、黙とうも行われた。被災者を励ます最高の勝利に、堀江は「なにか勇気、元気を与えたいと思っていた」と満面の笑みを見せた。心優しき主将は、サンウルブズの支柱であり続ける。【岡崎悠利】