世界の「ハネタク」が、長野の草レースで恩返しをする。ハネタクの愛称で、女性ファンが急増しているカヌースラローム男子カナディアンシングル銅メダリスト羽根田卓也(29=ミキハウス)が、9月23~25日に長野県安曇野市の明科で開催される恩師主催のカヌーレースで勇姿を披露する計画がある。そのレースの名前も「羽根田卓也オリンピックメダル記念大会」。

 主催する消防士の大沢勇治さん(50=松本広域消防局所属)は、羽根田が中学1年の時からずっと、練習場とレースの場を提供してきた恩人だ。羽根田はうれしそうな顔で、自分の名前が大会名となったレースに顔を出すいきさつを話しだした。「僕は大沢さんが管理する川(龍門渕公園を流れる前川)でいつも練習させてもらってました。レースにも出させてもらってました。実家(愛知・豊田市)から車で50分くらい。そこでたくさん練習することができて、今の僕があります」。

 消防士をしながら、地域の少年少女のためにカヌー環境を提供してきた大沢さんも、感慨深い様子で口を開いた。「まさか、時の人となった羽根田君が私のことを覚えててくれるとは思いませんでした。もう今回しかないと思い、大会に羽根田君の名前を使わせてもらいました。本当にありがたいことです」。通常なら50~60人規模のレースになるが、ハネタクの名前が大会名になることから、相当な問い合わせが予想される。「混乱なく大会を運営したいのですが、でも、羽根田君の名前を使わせてもらうわけだからそうもいきませんね」。大沢さんも今からどんな展開になるのか、期待半分、不安半分の心境だ。

 北京五輪の予選があった2007年のアジア最終予選はタイで行われることになっていた。そのタイのコースが明科(龍門渕公園を流れる前川)に非常に良く似ていた。そこで羽根田は急きょ明科で5日間の合宿を張り最終予選に臨んでいた。この特訓が功を奏し、晴れて初の五輪出場権を勝ち取った。いわば、明科は羽根田の五輪メダリストロードへの原点ともいえる流れをたたえている。

 そんな深い感謝の気持ちがあるからこそ、自分の名前を冠にすることも快諾した。さらに、足を運ぶことで、少しでも大会を盛り上げることに貢献したいとの思いがある。羽根田は「大沢さんにまだ直接メダルの報告ができてません。僕が顔を出してお役に立てるならうれしい。少しでも恩返しになれば」と言う。当日はレースには出場できないにしても、デモンストレーションなどで世界の「ハネタク」のカヌーパドリングを観客、選手に披露することは可能だ。

 19日に帰国して、その後は殺到する取材をこなす日々。もう水上でのトレーニングは終えており、メダリストとしてファンに見せる貴重な水上でのハネタクの勇姿となる。ハネタクの恩返しで、初秋の明科は一層のにぎわいを見せるはずだ。