本田真凜(16=大阪・関大高)が「強心臓」でシニアデビューを首位発進した。SPの滑走直前に、衣装をホテルに忘れてきたことが発覚。何とか間に合った本番ではノーミスの演技を披露し、66・90点でトップに立った。

 直前練習の15分前。控室でスーツケースを開いた本田は、肝を冷やした。着る予定のピンクの衣装がない。「やばい! かけたまんまや」。しわにならないようにとハンガーにかけたまま、ホテルに置きっぱなしだった。急きょ関係者に取りに行ってもらい、手元に届いたのは練習の3分前。慌てて着替え、「そわそわ」したまま6分間の練習をこなした。

 ここからが「真凜劇場」の始まりだった。約10分後の本番。名前を呼ばれると「ああ、これが初めてシニアで滑る演技なんだ」と幸せな気持ちが湧き上がった。ハプニングのおかげで「びっくりすぎて全部吹っ飛びました」と緊張も不安も忘れ、曲の「スマイル」に合わせて笑顔で滑り出すことができた。

 シニアデビューの姿を収めようと、テレビカメラ9台、スチルカメラ10台のレンズが一斉に氷上の本田を向く。もともと「カシャッ」と響くシャッター音が大好き。冒頭のフリップ-トーループの3回転連続ジャンプを鮮やかに成功すると、見られることを楽しむように四方に笑みをふりまき、スピン、ステップを流れるように決めていった。終始、氷の上に浮かぶように軽やかに舞い、ミスなく滑りきると「よかった~」と天に両腕を伸ばした。

 普段の着替えは直前ぎりぎり。この日は偶然早めにしたおかげで、最悪の事態を回避できた。「いやー、もう、めっちゃいい経験。これからは衣装は早く着替えようと思います」。「1度しかない」と心して臨んだデビュー戦。アクシデントを乗り越えての首位発進と、強烈なインパクトで五輪イヤーをスタートさせた。【高場泉穂】