14年ソチ五輪男子金メダルの羽生結弦(22=ANA)が、今季初戦で自身が持つショートプログラム(SP)世界歴代最高得点を1・77点更新する112・72点をマークし、首位発進した。右膝の痛みから4回転ループを回避するなど、難度を落とした構成で臨みながら、完璧な演技で高得点を引き出した。18年平昌五輪での連覇へ、最高のスタートを切った。

 滑り終えた羽生は、何度もうなずき、両手を広げた。「ちゃんとできたよ。ほら、見て」と。試合前に明かしていた右膝の痛みなど感じさせない、完璧な演技。五輪シーズン初戦で、いきなり112・72点の世界歴代最高をたたき出した。舞台を終えてカーテンコールをするように、四方に深々と頭を下げる。ブライアン・オーサー・コーチ(55)が「指揮者のようだった」とたたえる通り、会場を自分の世界へと引き込んだ。

 SPは2季前に2度世界歴代最高を更新した「バラード第1番」。慣れ親しんだ曲を選んだからには「最初から、このプログラムは素晴らしいなって思えるようにしないと」と自分に課した。だが、痛めた右膝を守るため、今回は高得点を望める4回転ループを回避。難度を落としながらも平昌五輪で金メダル争いのライバル、フェルナンデス(スペイン)に10点以上差をつける驚異的な得点を出した。それもこの2年で高めた技術があったからだ。

 最初のジャンプ4回転サルコー、後半のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も一糸乱れず着氷し、どちらも出来栄え点(GOE)で3点満点。ここからが進化の証明だった。SPで初めて後半に導入した4回転-3回転の連続ジャンプでは、ターンしながら助走なしで踏み切り、2つ目の3回転は初めて両手を上げて着氷。細部にこだわり、加点を引き出した。自分史上「後半でマックス」という構成を完璧にこなした。「非常に納得できる演技。構成落とそうがなんだろうが、後半ですべてを出しきるというのは、非常に難しい」と自画自賛した。

 世界最高は滑り込んだシーズン中盤から終盤にかけて生まれてきた。現行の採点方式となった04年シーズン以降、GPシリーズ前の前哨戦で記録したのは今大会の羽生が初めて。しかも、4回転ループや連続技、まだ実戦で使用していない4回転ルッツ導入を見送った。得点アップの余地はまだ残されている。

 「まぁ初戦だし、やっぱりこれをベースに戦っていかないといけない」。大記録とは裏腹に羽生の口ぶりは冷静そのもの。あくまで今季の最大目標は五輪連覇。世界最高は羽生にとって、序章にすぎない。【高場泉穂】

<関係者のコメント>

 ▼ANAスケート部の城田憲子監督 「天才に近い。1つ1つの要素が2年前より成長している。今日は褒めてあげてください」。

 ▼日本スケート連盟の小林芳子強化部長 「最後のステップは、緩急があって、ピアノの旋律そのものだった。本当にすごい」。