カヌーの有力選手がライバル選手の飲料に禁止薬物を混入する前代未聞の出来事について、元陸上選手で五輪に3度出場した為末大氏(39)は驚きをもって受け止め、反ドーピングの意識向上が必要だと語った。

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 海外でも事例のない珍しいケースだと思います。ドーピングのレクチャーではそういうこともあり得ると教えられましたが、本当にあるとは…。考えてみればできるよね、っていうのが印象です。

 また、妨害自体ありえないことですが、ドーピングっていうのは、選手の名誉ごと葬り去り競技人生を終わらせてしまうので、「そこまでするか」という感覚です。五輪に出られるか出られないかで人生は変わりますから、本人の中では合理性を感じたのでしょうか。

 私が選手時代は、ペットボトルの飲み物は1回手から離れると飲みませんでした。常に新しいものを開けて、1度飲んだものは大半が残っていても口にしなかった。米国で一緒に練習するチームメートが検査で引っかかったことがあるが、日常生活からは分からなかった。

 過去には100メートルの日本王者にもなった伊藤喜剛さんが、1996年のアトランタ五輪の前にドーピング検査で陽性が出ましたが、伊藤さん自身は身の潔白を訴えていました。今回は選手の自白と物証があって事件が発覚しましたが、これまでも同じような事例はあった可能性もあります。

 東京五輪に新種目で入るサーフィン、スケボー、空手、ボルダリングは五輪世界特有のドーピングのセンシティブな感覚はなかなか分からないかもしれません。家族が渡した風邪薬で検査に引っかかった例も。選手の周囲も意識を変えなきゃいけない時だと思います。

 自分が現役選手だったら、この状況はとても嫌ですね。これ飲む? なんて日常的に言われるたびにビクビクしなきゃいけない。今の選手はとても大変だな、って思います。