ノルディックスキー・ジャンプ女子で2大会連続の五輪代表が確実な伊藤有希(23=土屋ホーム)の強さの秘密は故郷の北海道・下川町にある。町内には照明設備のある4基のジャンプ台、先輩たちから受け継ぐ伝統など国内有数の環境が整う。冬季五輪で市町村別では最多の6個のメダルを獲得した「虎の穴」からメダル取りへ挑む。

 札幌から北に約240キロ、北海道北部にある下川町が伊藤の故郷だ。人口約3500人の小さな町だが、冬季五輪にこれまで6人の代表選手を送り出している。メダル獲得数は市町村別で最多の6個。これほどメダルを量産できた秘密は3つある。

<1>環境

 69年に設備された町営スキー場のジャンプ台は、アルペンスキーでも飛べる初心者用の8メートル級から26メートル、40メートル、65メートルと4つ。照明設備もあり、学校帰りに野球やサッカーをするのと同じように、遊びの延長線上でジャンプに触れることができる。伊藤は「ゲームセンターも何もないので学校が終わったら真っすぐジャンプ台に行ける」と笑う。「世界一」と話す環境でジャンプの礎を築き上げた。

<2>伝統

 「どうせ飛ぶなら世界一」をスローガンに掲げる下川ジャンプ少年団は77年に発足した。98年長野五輪団体金メダルの岡部孝信氏は10期生、14年ソチ五輪男子ラージヒル銀メダルの葛西紀明は12期生、伊藤は34期生に当たる。代々のOBたちは自分たちが使用したジャンプスーツなどの用具を寄贈。それを小さく縫い直したものを団員たちが着用する。岡部氏や葛西のスーツに袖を通せば、世界が身近に感じられる。

<3>指導体制

 少年団でコーチを務める伊藤の父克彦氏と竹本和也氏は、ともに町教委の指導専門職員。町を挙げて底辺拡大、競技力向上に取り組む。小中高と一貫教育で指導を受けられるのも強みだ。伊藤も地元の下川中、下川商高でジャンプを磨いてきた。克彦氏は「各世代にトップがいたし、追う背中があるのは大きい」と話す。

 昨季、W杯で5勝を挙げ世界のトップに上り詰めた伊藤は今季、W杯で4戦で表彰台は1度(3位)だけと苦しんでいるが、年末に帰郷すると団員が使用する小さなジャンプ台で微調整を重ねた。「小さい台はより1つのミスが大きく響く。いい調整ができた」と今でも故郷を支えにしている。「先輩たちが夢を見させてくれていたので、下川で練習すれば五輪に行けると思っていた。みんなに喜んでもらえるようにメダルを取りたい」。小さな町で育んできた大きな夢を平昌(ピョンチャン)で実現させる。【松末守司】