最初の2セットを分け合い、第3セット2オール。がっぷりと組み合った錦織圭(28=日清食品)と、元世界王者のジョコビッチ(セルビア)に、大きな分岐点が巡ってきた。ジョコビッチのサーブで0-40。錦織は3本連続のブレークポイントを握った。「あそこを取っていたら、自信もついて、またプレーも変わっていたかもしれない。チャンスはかなりあった」。そして、それを逃した錦織は、そのまま4セットで敗れた。

 展開が、少し14年全米準決勝と似ていたかもしれない。第2セットから第3セットの序盤まで、ジョコビッチは、間違いなく緊張感が高まっていた。そして、それは第2セットを落としたことで焦りに変わっていた。

 ジョコビッチがほえたり、フォアハンドを声を上げてすくい上げるフォームになった時は、縮こまっている証拠だという。14年全米準決勝も似たような感じがあった。0-30からアウトになったフォアは、まさにその兆候が見られた。

 0-40から、錦織が勝負をかけたバックのダウン・ザ・ラインはラインを外れた。15-40から、ジョコビッチのバックがきれいに決まった。この2本はしょうがない。そして迎えたのが3本目のブレークポイントだ。

 ジョコビッチのサーブが入り、ラリーになった。錦織のリターンを含み、ポイントがジョコビッチに入るまで、15本のラリーがあった。その中で、3本はフォアで攻めることができるショットがあった。5本目、7本目、13本目だ。

 特に13本目は、ジョコビッチのバックが少し浅くなり、錦織はフォアを踏み込んで打てた。しかし、強打でもなく、深く入れるでもない中途半端なショットになり、ジョコビッチの逆襲を食らった。

 3本のフォア。どこかにチャンスを見いだしていてもよかったのではないか。もちろん、攻めたからといってポイントを取れたという保証はない。その時、思い出したのが14年全米の準決勝だ。右足親指裏にできた腫れ物を手術し、当初は欠場するつもりだった大会。失うものはない対ジョコビッチ。だから無心でいられた。その時のフォアはえぐかった。

 今は、もちろん無心ではいられない。多くのものを抱え、それが錦織がトッププロになった証でもある。だからこそ、無心ではないトッププロとしてのえぐいフォアを、3本の内、1本は見たいと思った。ただ、間違いなく、そのフォアは、夏のハードコートシーズンに復活するだろう。