【ニューヨーク=吉松忠弘】世界19位の大坂なおみ(20=日清食品)が、日本男女を通じて史上初めて4大大会シングルス優勝の快挙を達成した。4大大会最多タイ24度目の優勝を狙った元世界ランク1位のセリーナ・ウィリアムズ(米国)に6-2、6-4の1時間19分でストレート勝ち。セリーナが3度の警告を取られるなど騒然とする中、全く動じない精神的なたくましさを見せた。12日に凱旋(がいせん)帰国予定で、17日開幕の東レ・パンパシフィック・オープン(立川)に出場する。

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喜び、悲しみ、怒りが渦巻いた2万3771人を飲み込む世界最大のセンターコートで、なおみが泣いた。濃密な79分に詰め込まれた合計110ポイントが、日本スポーツの歴史を変えた。「感情が押し寄せてくる。でも、まだ実感がないの」。ブーイングが響き渡る前代未聞の決勝。こみ上げるさまざまな思いを抑え、大坂が、日本人として初めて、4大大会の優勝トロフィーを抱いた。

4大大会の決勝でセリーナと対戦するのが夢だった。その相手が敗者として横にいる。表彰式で「みんながセリーナを応援していたでしょ」と話し始めると、「こんな結果でごめんなさい」。4大大会初優勝の20歳が謝る優勝スピーチも前代未聞だ。そして、「プレーしてくれてありがとう」と、セリーナにぺこりとお辞儀。ブーイングが、祝福の口笛と拍手に変わった。

女子テニス界を変えたと言われるセリーナのパワーテニス。筋骨隆々の巨体から放たれる強打に、しっかりとパワーで答えた。真っ向から挑み、セリーナを受け止め、伝説の女王に快勝した。「勝った瞬間は、普通の試合のつもりだった。でも、ネットの向こうにいたのはセリーナ。彼女が抱きしめてくれた。信じられない」。

昨年までは強打一辺倒。イチかバチかのプレーで、当たればトップ選手も倒したが、下位選手にも多く取りこぼした。昨年末、バイン氏がコーチに就任し、2人がテーマにしたのが「我慢」だった。「すべてを強打する必要はない。なおみの普通のストロークで、世界を取れる」。

それを可能にしたのが、徹底的なトレーニングだ。昨年のオフ、トレーニングで約7キロの減量に成功。絞った体で動きが軽快になった。軸も安定し、ミスも減った。これが「我慢」できる要因となった。

心の「我慢」は身につけるのに苦労した。3月のBNPパリバオープンでツアー初優勝後、周囲の期待から重圧でつぶれそうになった。全米前哨戦のシンシナティ大会では、初戦敗退後、「テニスに向いていない」と、ロッカーで泣いた。

しかし、多くの経験と周囲の支えが、大坂を成長させた。「もう以前とは違った選手」と胸を張る。この日もセリーナの抗議で場内からブーイングが起こるなど異様な雰囲気の中、「コート外で何が起こっても関係ない。コートに入ったらテニスをするだけ」と言い聞かせた。

それでも、無邪気ななおみも健在だ。縁起を担ぎ、毎日、朝食はベーグルだった。しかし、「何でも食べていいなら、トンカツ、カツ丼、カツカレーに抹茶アイスが食べたい」。4大大会優勝に比べ、その小さな夢は、凱旋(がいせん)帰国する東京で、すぐに実現する。