16年リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)で4連覇を達成して以来、休養していた伊調馨(34=ALSOK)が、788日ぶりの実戦復帰を優勝で飾った。57キロ級で3試合に圧勝。日本協会の強化本部長だった栄和人氏から受けたパワハラ問題を経て、今春から日体大で本格練習を開始した。20年東京五輪挑戦については「100%目指せる環境が整ってから」と明言を避けたが、個人種目で史上初の5連覇へ第1関門を突破した。

伊調は笑わなかった。会場入り後、計量時に見せたリラックスムードが一変。試合では高い集中力を保ち、風格を漂わせた。リオ五輪時よりひと回り細くなった体で、切れ味鋭い技を繰り出した。初戦を38秒でテクニカルフォール勝ちすると、準決勝と決勝でフォール勝ちと高い技術を披露し、最優秀選手賞に輝いた。「大会に向けて準備してきたが、2年ぶりということで思うような動きとか展開ができなかった。ホッとした部分とこれからやることが明確になった」と口元を引き締めた。

リオ五輪後に現役続行を保留し、その後パワハラ問題で世間を騒がせた。一時はホテル暮らしするほどで、引退も頭をよぎった。だが「レスリングがしたい気持ちが背中を押した」と、今春から日体大で練習を再開。夏には、朝昼晩と3部練習をこなすなど体力、技術を磨き上げ、復帰にこぎつけた。

五輪5連覇に向けては「年齢も年齢なので簡単に言えない。5連覇したいという気持ちを心の底からつくらないといけない。100%自信を持てる環境が整えば」と話すにとどめた。この「100%の環境」とは、04年アテネ五輪男子フリースタイル55キロ級銅メダリストの田南部力氏(43)との二人三脚を指す。パワハラ問題以前は毎日指導を受けていたが、現在は警視庁に勤務する同氏の仕事の合間に見てもらっている。伊調は「練習で追い込んでくれる人が必要」と要望した。

今大会で2位以上に入ったことで、全日本選手権(12月20~23日・駒沢体育館)への出場権を得た。11月には強化選手の合宿も行われる。日本協会の西口茂樹強化本部長(53)は「ナショナルチームの合宿にも参加してほしい。サポートしていく」と話し、伊調も「すごくありがたい。参加したい」と前向きな姿勢を見せた。今後の階級も「57キロで出ます」と確定した。いくつもの山を越えた先に、2年後の大舞台が見えてくる。【松末守司】

◆伊調の東京五輪への最短の道 代表選考は正式に発表されていないが、前回リオ五輪に当てはめると、まずは12月の全日本選手権と来年6月の全日本選抜選手権を優勝し、世界選手権代表入りする。そこでメダルを取り、来年12月の全日本選手権に出場すれば、代表内定を得られる。