GPデビュー戦の紀平梨花(16=関大KFSC)が女子SPで69・59点を記録し、5位となった。大技トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は転倒したが、残りの演技で安定感を示し、76・17点で首位のトゥクタミシェワ(ロシア)とは6・58点差。今日10日のフリーは3回転半2本を入れた構成で巻き返す。

決めポーズを解いた紀平が、悔しげに片目を閉じた。心中は「跳び上がるのが早かったな…。ここは明日、改善しないと!」。GPデビュー戦で挑んだ冒頭の3回転半。銀盤に体を打ち付け、とっさに「1戦目でこけちゃった…」と後ろ向きな気持ちが芽生えた。

それでも大観衆の声援で、心を前向きに切り替えた。「滑っている時間が楽しくて、初めて感じたようなものだった」。残ったフリップ-トーループの連続3回転、3回転ルッツを成功。演技構成点では「音楽の解釈」など5項目中3項目で10点満点の8点台を引き出し、大技失敗をカバーする落ち着きぶりが光った。

憧れは浅田真央さん。兵庫・西宮市の小学校に通っていた低学年の少女は、大阪・なみはやドーム(現東和薬品ラクタブドーム)での全日本選手権を生観戦したことがある。得点発表を待つ「キス・アンド・クライ」の少し上段に座った紀平は、浅田さんの演技を見るや最前列まで走った。「真央ちゃんみたいなトリプルアクセルを跳びたいです」。憧れの人を目がけて「真央ちゃ~ん」と叫ぶと、そう思いをしたためた手紙を投げ込んだ。席に戻ると「ねえ、真央ちゃんがこっち向いてくれたよ!」と笑顔で家族に報告した。

「その時はまさか跳べると思っていなかった。トリプルアクセルといえば『真央ちゃんがうまい』っていうイメージなんです」

14歳だった16年9月には、女子世界7人目となる3回転半に成功。ジュニアではルール上SPから組み込めず、今季のシニア転向を選んだ。年齢制限で平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)は出場資格がなく、見据えているのは22年北京五輪だ。憧れの人が挑み続けた3回転半に強くこだわるからこそ、会場中がデビューをたたえても満足はない。

「他の部分では思うような演技ができた。でも、自分が望んでいた点数と違って悔しい。フリーは朝練で不安がないようにして、自己ベストを出したいです」

GPデビュー戦で優勝となれば、日本勢初の快挙。歴代の名スケーターでも成し遂げられない難しさを、ほろ苦い経験としてまず味わった。フリーは3回転半2本の構成で、今度こそ心の底から笑う。【松本航】