錦織圭は昨年8月、米シンシナティで大会の練習中、右手首の腱(けん)を脱臼した。手術こそ免れたが、ツアーからの長期離脱を余儀なくされた。しかし「トップ10の位置に3年いた経験がある」ことで、確かな自信があった。昨年の11月。リハビリ中のフロリダで、当然のように「(トップ10に)戻れると普通に思っている」と話していた。

当時は「本当にそう思っていた」が、実際に復帰してみると「半年ぐらいは戻れる気配はなかった」。4月のモンテカルロ・マスターズで準優勝し「突然、感覚が戻ってきた」。それでも、まだ「アップ・アンド・ダウンがめちゃくちゃあった」。ウィンブルドン前哨戦や全米前哨戦では早期敗退があった。

その波が安定したきっかけは「全米だった。1番、大きな自信になった」。全米4強以降、5大会に出場し、優勝こそなかったが準優勝2回を含み、すべてベスト8以上の成績を残した。「かなり納得のいくテニスができている」。

その要因は何なのか。ATPツアーが公表しているデータで「アンダー・プレッシャー」というのがある。つまり重圧に強い選手を数値化したランキングだ。数値化は、ブレークポイントの奪取率、ブレークポイントを握られたときの回避率、タイブレークの勝率、最終セットの勝率の4項目を足したものだ。その数の多い順がランキングとなる。

錦織はそのデータで、今年の1位だ。今年だけに限れば、世界で最もプレッシャーに強い選手ということになる。つまり、接戦をものにできていることが多いということだ。パワーで劣る錦織は、一発必中のショットがないだけに、試合がもつれることが多い。それを勝利に結びつけることが多ければ多いほど、彼の真骨頂なのだろう。

ちなみに、2位以下を上げると次のようになる。

2位ナダル(スペイン)、3位クリザン(スロバキア)、4位フェデラー(スイス)、5位ダニエル太郎(エイブル)。

ダニエルは、10回以上戦っているタイブレークの勝率が、今年に限れば世界1位だ。13勝3敗は、錦織の16勝5敗を上回る。ダニエルも今年、自身初のツアー優勝を遂げ、世界ランキングの自己最高位を更新した。錦織もダニエルも、好調な要因は接戦をものにできたのが大きいということになる。(続く)

 

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