【モスクワ15日=高場泉穂】フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第5戦、ロシア杯の公式練習が、モスクワの会場で行われ、男子の羽生結弦(23=ANA)が初調整した。ロシアは羽生にとってスケートへの思いを強めた大事な場所。名将タラソワ氏らにも直接エールをもらい、5度目の優勝が懸かるGPファイナル(12月6日開幕、カナダ・バンクーバー)進出、自身初のGP連勝(ファイナルをのぞく)を狙う。16日ショートプログラム(SP)の滑走順は最終の12番に決まった。

練習を終えた羽生はうれしそうに笑った。「痛いところなく今のところいい調整ができているかと思います」。昨季はGP初戦ロシア杯で2位。2戦目のNHK杯の公式練習中に4回転ルッツで転倒し、5連覇がかかったGPファイナル進出を逃し、翌2月の平昌五輪(ピョンチャン・オリンピック)にまで響く右足首の大ケガを負った。モスクワ入りした前日14日は1年前の悪夢を振り返り、「昨年みたいなことにならないようしっかり気をつけます」と自戒を込めて話していた。

この日はループ、サルコー、トーループなど試合に使う4回転ジャンプはもちろん、右足に負担がかからないよう封印してきた3回転ルッツも披露。試合で跳ぶ予定はなく、リカバリーとして「使えるようにしている」だけと明かしたが、昨年のケガにつながったルッツジャンプを跳ぶこと自体が好調の証しでもある。ルール改正後の世界最高得点で制したフィンランド大会から中1週。GPファイナル進出とともに、自身初のGP連勝がかかると問われると、「無駄なプレッシャーをかけますね」と笑い、「勝てるなら勝ちたい」と自信をのぞかせた。

練習中、ふと動きを止めてリンクサイドにかけ寄った。目に入ったのはタチアナ・タラソワ氏(71)の姿だった。浅田真央らを育てたロシアの世界的名将。平昌五輪エキシビションで使用した「白鳥」をモチーフとした曲「ノッテ・ステラータ」も同氏からプレゼントされたものだった。あいさつすると、「がんばってね。いつも見てるから」と声をかけてもらった。

練習前には敬愛するロシアの「皇帝」プルシェンコ氏を育てたアレクセイ・ミシン氏(77)にも遭遇した。今季のフリー「Origin」はプルシェンコ氏の代表作「ニジンスキーに捧ぐ」の曲を使う。昨季のロシア杯と同様、プルシェンコ氏が観戦に来る可能性も高い。「この地だからこそ、そういう方々が見ているからこそ、しっかり自分らしい演技をしなくてはいけない」。ロシア杯は4度目。11-12年シーズンにGP初勝利を挙げ、昨季は初めて4回転ルッツを成功した。「このリンクにもいろんな思い出がある」。羽生にとって特別な地で、思いを込めて滑る。