羽生結弦(23=ANA)が男子SPで110・53点をマークし、首位発進した。ジャンプすべてを決めるほか、表現面でも満足の内容をみせ、GP第3戦フィンランド大会で出した106・69点の世界最高点を3・84点更新。日本人最多のGP10勝目、5度目の優勝が懸かるGPファイナル(12月、カナダ・バンクーバー)出場へ前進した。

すべてのジャンプを決め、ステップに入る羽生の目線の右先に見えたのは、タチアナ・タラソワ氏の姿だった。憧れのジョニー・ウィアー氏の代表作「秋によせて」を使う今季のSP。元の振り付けを担当したのがタラソワ氏。「感情がこもったものになった」。大歓声を浴びながらタラソワ氏の目の前で見せ場のジャンプを跳んでみせた。

フィンランド大会で出した106・69点の世界最高点を中1週間で更新した。自分に厳しい羽生が「たぶんこれがマックス(の点数)」と言えるほどの出来だった。冒頭の4回転サルコーは流れるように決まり、ジャッジ9人中4人が出来栄え点で最高の5点。トリプルアクセル(3回転半)も完璧に決まり、4回転-3回転の連続トーループは着氷が乱れたが、いずれも3点以上の加点を得た。

ジャンプを決めたからこそ表現にも意識が行き届く。「指先とか表情とか、1つ1つの音の感じ方というのを大事にした。表現面はすごくうまくできた」。小学生の頃の羽生が憧れたのはウィアー氏の美しい表現だった。着氷する際の美しい姿勢、柔らかな手の表現、腕を音に合わせて動かしながら回るスピン…。幼い頃から繰り返しビデオを見てまねてきた美しい動きを自分流に再現した。

拠点のクリケットクラブでは、骨や筋肉など人体解剖学を頭に入れながら、靴の刃の角度、腕の位置などを意識し演技を細かく作りあげていく。スケーティング担当のウィルソン・コーチは、練習を終えた羽生に「どう思う?」と聞かれ、見とれるあまり「何も考えてなかった! ごめん」と返したことがあると明かす。この日、オーサー・コーチも「美しかった」と手放しで称賛。師をうっとりさせる美しさでジャッジの高評価を得た。それでも羽生に100%の満足はない。「今の反省点を明日に使いたい」。もっと完璧で美しいフリーで勝つ。【高場泉穂】