女子テニスで、アジア勢史上初の世界1位となった大坂なおみ(21=日清食品)が、サーシャ・バイン氏(34)とのコーチ関係を解消した。さすがに、これには驚いた。対外的には、大坂の成長は、バイン氏の手によるものと見られていたからだ。

大坂の課題は、精神的なことにある。全豪の時も、自身で「3歳児のメンタリティー」と話していた。それは、誰の目にも明らかだろう。バイン氏がコーチに就任する18年より以前は、大舞台とその他の大会での集中力が大きく違い、波が激しかった。また、自身でも「完璧主義者」という性格で、試合中で少しのミスでも自分を許さず、そのまま気持ちが切れてしまうことが多かった。

それを、バイン氏が、なだめ、ほめ、やる気を出させ、大坂が成長していったとみられていた。大坂も「我慢」を学んだと、何度も口にした。バイン氏がコーチに就任し、18年3月に、4大大会に次ぐレベルのBNPパリバオープン(米インディアンウエルズ)でツアー初優勝。9月の全米で日本人初の4大大会優勝。ただ、その後も、試合中に突然、泣きだすなど、精神的な不安定さは残っていた。

まず、大坂には、独特の彼女の世界、「大坂ワールド」がある。日本では「なおみ節」と呼ばれる、まか不思議な話やジョークに、それが見て取れる。以前、「私はジョークを言っているのに、誰も笑ってくれない」と苦笑いをしたことがある。全豪でも、「大会はいろんなとこにカメラがあって嫌じゃないか?」と問われると「私は幽霊。映らないわ」と答え、質問者はポカーンとした。

極端なシャイということもあり、会場にいるとき以外は、「部屋でゲームをしていることが多い」。最大の理解者は「姉」と言っていた。なかなか「大坂ワールド」は難攻不落で、「完璧主義者」という世界も、そこから来ているのだろう。

3歳で始めたテニス人生の大半は、父レオナルド・フランソワさんがコーチだった。日本テニス協会の代表コーチや、9歳で移り住んだ米フロリダで本拠地としたクラブのコーチらが支援はしていた。しかし、フランソワさん以外がコーチになったのは、16年9月に、日本テニス協会が招いたデビッド・テーラー氏(オーストラリア)が初めてだ。ただ、その関係も約1年しか持たなかった。

「完璧主義者」のため、少しでも違和感を覚えると、関係が持たないのかもしれない。また、選手とコーチの関係は、家族より長く一緒にいて、心同士を深くつなぎ合わせる。しかし、独特の「大坂ワールド」は、簡単にそれを許さないのかもしれない。4大大会2大会連続優勝に、世界1位を成し遂げても、確固たる「大坂ワールド」は、いまだに難攻不落である。【吉松忠弘】