男子個人総合は出場者30人で誰が優勝しても初の栄光をつかむ。

理由は「キング」内村航平の不在。10連覇中だった絶対王者は、4月の全日本選手権で予選落ちとなり、今大会に駒を進めることができなかった。空席となった長年の定位置に誰が座るのか。次世代の旗手を巡り、東京五輪への試金石となる今秋の世界選手権(ドイツ)代表争いの第2関門(上位3人が決定)で覇権を争う。

女子は全日本で4年ぶりの優勝を果たした寺本明日香と2連覇中の村上茉愛が覇権を争う展開。全日本の結果と合わせて男子は上位3人、女子は4人が世界選手権代表に決定する。

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全日本の男子個人総合を制したのは若きエース候補だった。谷川翔(20=順大)は、19歳だった18年大会に彗星(すいせい)のように登場し、一気に頂点を極めた。そして、1年後の19年大会でも再び輝きを放ち、2連覇を飾った。

その優勝会見、「NHK杯という言葉を聞き、あまり良い思い出がない。恐ろしい言葉ですが、それを乗り越えないと代表にはなれない」と歓喜に自制を利かせ、この舞台をにらんできた。悔恨は昨年大会。初の世界選手権代表入りにリードを持って迎えながら、最終種目の鉄棒で落下とミスの連鎖。5種目終えての1位から4位と深く沈んだ。世界選手権代表は補欠。それが痛恨の失敗の現実だった。「恐ろしい言葉」というのもうなずける。

では今年は…。17日の記者会見では「NHK杯というのはいまでも怖い、そういうのはあるんですけど、ここまで来たらやるしかない。去年の悔しさは忘れなくて良いが、嫌なイメージは全部忘れて伸び伸びやるしかない」と表情を引き締めた。同じ轍(てつ)は踏まないために、「去年は(全日本の初優勝で)調子に乗っていた」という反省を生かして、練習に打ち込んできたという。

プラス要因は「いつもの光景」であることか。今大会の優勝は、全日本の予選、決勝の点数との合算で決まるため、実質的にはすでに優勝候補が絞られている。そしてその対象となるだろう第1班の6人のうち、実に5人は日頃から練習をともにしている。谷川翔が拠点とする順大は、セントラルスポーツ陣の拠点でもある。全日本2位萱和磨、4位野々村笙吾、5位谷川航、6位前野風哉とそろい踏み。萱は「昔からそういう風に切磋琢磨(せっさたくま)してやってきている。あらたにかしこまることもない。これからも一緒に高めていけたらいい」と歓迎する。

全日本の予選、決勝それぞれの6種目合計点で比べれば、世界との差は否めなかった。決勝の谷川翔の84・699点は、昨年の世界選手権優勝者ダラロヤン(ロシア)の87・598点には3点以上及ばない。けん引役だった内村不在の状況だからこそ、新世代の奮起が待たれる。全日本で“安全運転”だった選手もいるだろう。果たしてNHK杯でどれだけアクセルを踏み込んで、得点を上げてくるか。世界と伍(ご)していけるのかを見極める上では、順位だけでなく得点にも注目する必要がある。

 

◆注目選手コメント

 

萱「NHK杯は小さい頃から憧れていた大会。日本で一番大きな大会だと思う。代表入りもあるが、そこは優勝を狙い、代表に入りたい。いつも通り、演技したいです」。

武田「目標は1つ上の萱選手の上にいき、逃げ切り。2位を目指している。1位ではないのは、これからの日本の中心になる翔選手には失敗してほしくないから」。

谷川航「この大会では(世界選手権代表決定は)3番までなので、点差的には1点ないくらい。ミスがなければ全然まける点差。自分の演技できれば3番には入れる」。