2020年東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会は9日、暑さ対策の知見を得るため全国高校野球が行われている兵庫県西宮市の甲子園球場を視察した。甲子園は今年で101回目となる夏の風物詩。毎年、真夏の炎天下でも多くの観客が集まり大会が運営されていることから、参考にしようと視察を実施した。

組織委スポーツ局スポーツ調整室の渡部雅之スポーツ調整担当部長ら4人が甲子園を訪れたのは「鳴門-花巻東」「飯山-仙台育英」が行われた午前10時から午後1時までの間。選手、観客、スタッフと3つの観点で視察した。

選手回りでは、試合前に高野連からチーム側へ、熱中症予防のブリーフィングがあった。ダッグアウトでは背番号が記してあるコップが人数分あり、毎回スポーツドリンクを飲むことが義務づけられていた。大会運営側が指導し、ベンチ入りメンバー全員が飲んだかどうかチェックできる仕組みが整っていた。

渡部担当部長は「オリンピックではトップアスリートなので全て指導する必要はないが、日本特有の暑さについて国際競技団体などに周知する仕組みを検討したいと感じた」。

観客の視点でアルプススタンドなどを見た。屋根もなく、直射日光を浴びる場所だが連日、多くの観客が声援を送る。東京五輪では新たに屋根のない屋外で実施する複数の都市型(アーバン)スポーツが実施されるため状況が似ている。

一塁側、三塁側ともに背中にタンクを背負った運営スタッフ3人が観客にミストを散布していた。渡部担当部長は「涼しくなるのもそうだが、ミストスタッフがスタンドにいることで、熱中症に気をつけようという観客への気付きにもなっていた。参考にしたい」と話した。通路には遮熱性の床面が整備されていた。

アルプス裏の通路にはクーラーが設置され、観客が涼むことが出来た。東京大会では費用面や仮設会場などの問題があるため、同様の設備は用意できないというが、簡易的な「スポットクーラー」の設置を検討するという。

甲子園名物、かち割り氷も目にした。「飲み水のみならず体の熱い部分に当てて冷やせる」。五輪で無料配布できるかとの問いには「スポンサーや飲料供給業者との関係もあり、無料配布をするなら相当の調整がいる」と難しそうだ。

入場前、観客の待機場所には各ゲートでテントが設置されていた。五輪でも炎天下での行列が予想される。「やはり屋根があるのは大きい」と参考にした。

ミストスタッフやスポットクーラーなど、暑さ対策の計画は中央管理ではなく、それぞれの会場で検討することになる。今回の視察で得た知見を持ち帰り、それぞれの会場、部門と共有する。

渡部担当部長は甲子園を見た感想を「これだけ暑い中、これだけの規模で長い期間行うイベント。長い歴史でトライアンドエラーがあったと思うが、暑さ対策がしっかりと取られていた。この知見を生かしたい」と述べた。【三須一紀】