過去4度のワールドカップ(W杯)ボルダリング総合女王に輝いた野口啓代(30=TEAM au)が、2大会連続の銀メダルを獲得した。

全4課題で2課題を攻略し、20年東京オリンピック(五輪)代表権が懸かる3種目の「複合」に向け、好スタートを切った。野中生萌(XFLAG)は1完登で5位、倉菜々子(ウィルスタッフ)は完登なしの6位。男子はW杯総合王者の楢崎智亜(TEAM au)が、2大会ぶりの優勝を飾った。

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30歳のベテランは、最後の4課題目で指先に全ての神経を集中させた。「絶対に一撃でいく」と心に決め、1回目で完登。両手で力強くガッツポーズして、観客に深々と一礼した。試合後、野口は「(銀メダルで)またか…という気持ちだけど、(東京五輪代表選考の)複合に向けては良いスタートが切れた。納得のいく登りはできた」と充実した表情で振り返った。

夢が背中を押した3年間だった。今大会前、自身のインスタグラムで「最後の世界選手権」となることを伝えた。15年8月、左足靱帯(じんたい)損傷の大けがなどで「壁が怖くなった」時期もあったが、16年8月に東京五輪の新競技にスポーツクライミングが決まったことで「五輪金メダル」が夢となり、原動力となった。「ゴールは東京しかない。十分な準備もできるし、最後が決まれば競技にも集中できる」。

日本女子の第一人者は、高1の時に世界選手権に初出場し、今回が9回目。当時は報道陣の数も少なく、記者会見もなかったという。しかし、14年が経過した今年の開幕記者会見には70人超の報道陣が集結し、この日は2000人超の観客が会場に訪れ、注目度の高さをうかがわせた。

今大会の最大の目標は「複合」で7位以内の日本勢最上位に入り、五輪代表権を獲得することだ。小学生の頃から取り組む「一番好きな種目」で好発進したが、気を引き締める。全ては1年後の集大成となる大舞台で頂点に立つため。夢をかなえるため、「今よりも強い自分」を追求して今日も壁を登る。【峯岸佑樹】

◆スポーツクライミングの東京五輪代表選考 男女最大で2人ずつが出場できる。世界選手権の複合7位以内の日本勢最上位が代表に内定する。次は11月開幕の五輪予選(フランス)、20年4月のアジア選手権(岩手・盛岡市)が選考大会になる。内定者が2人に満たないか3人を超えた場合は、同5月の複合ジャパンカップ(開催地未定)の最上位が選出される。

◆ボルダリングの順位決定方法 複数の課題を登り切った(完登)本数を競う。完登数が同じ場合は「ゾーン」と呼ばれる高度を獲得した数が多い選手が上位。並んだ場合は完登に要したトライ数、さらにゾーンを獲得するために要したトライ数で順位を決める。例えば、野口の2T2Zは2つの課題で完登し、ゾーンも獲得したことを意味する。2、3位と4、5位は完登に要したトライ数による。

◆野口啓代(のぐち・あきよ)1989年(平元)5月30日、茨城・龍ケ崎市生まれ。茨城・東洋大牛久高卒。小5で競技を始め、小6で全日本ユース選手権優勝。08年ボルダリングW杯モンタウバン大会(フランス)でW杯日本女子初優勝。09、10、14、15年と4度ボルダリングW杯年間総合優勝。18年世界選手権同種目2位。趣味はネイル。165センチ。