女子の強化は残り1年で圧倒的強さを取り戻せるのか-。

レスリングの世界選手権はカザフスタンの首都ヌルスルタンで22日に閉幕し、女子は五輪実施の6階級で金1、銀2、銅1のメダル4個に終わった。

金が1つにとどまったのはロンドンで2連覇を飾った直後の吉田沙保里が、男女通じて史上最多となる世界選手権10連覇及び世界大会(五輪+世界選手権)13大会連続優勝を達成した12年大会以来3度目(女子が五輪に採用された04年アテネ五輪以降)。

記録的には低空飛行。笹山秀雄女子強化委員長は「メダルは全部で5個取れ、国別対抗得点で優勝することもできました。伝統は守れたと思います。金メダルが1つだったことについては、そこまでは惨敗だとは思っていない」と総括したが、東京五輪に向けて向かい風が吹く結果となった。

女子の裾野の広がりは明らかだ。今回は6階級24人のメダリスト(3位が2人)で、17カ国の選手が表彰台に上がった。大陸も多様。アフリカからはナイジェリア、欧州でも小国のエストニアが上位に食い込んだ。

4階級の実施だった08年北京五輪が10カ国、12年ロンドン五輪が11カ国、現行と同じ6階級となった16年リオデジャネイロ五輪が13カ国で、飛躍的ではないが確実に選手層は厚くなっているといえる。

今大会を見届けた日本代表の関係者は一様に「女子のレベルは上がっている」と口をそろえた。

では、今後の1年間で日本代表が海外勢の伸び幅に後れを取らないためにすることは何か。

必須なのは分析力の向上だろう。

格闘技では定番の映像を使った対戦相手の研究が、女子では実質的に機能していなかったと思える。同強化委員長はこれまでの映像を使った対策について、「全体は行っていたが個別には行っていなかった」と述べた。

たとえば、大会で初顔合わせの相手を迎えたときに攻略の手引きとなるような映像は、その大会での数試合ということが常で、累積した映像は持ち得ていないのが現状だという。

初見だからこそ、得意技、技だしの確率、得点、失点の時間帯別区分けなどが勝利への助けになると思うが、現状では十分な資料を有しているとは言えない。

また、映像を使った分析も、個々にゆだねられているケースが多い。数試合を見ただけでは、得意技なら分かるが、時間軸からみた勝機を探すなどの踏み込んだデータは限定されるのが現状だろう。何より選手にそれを必要とする発想が薄かったのではないか。

逆に言えば、従来はそこまで映像は必要なかったとも言える。吉田、伊調馨に代表される圧倒的な個が、いくら相手の分析を許しても、マットの上で勝利までは譲らない無類の強さで引っ張ってきた。

女子競技がまだ黎明(れいめい)期で、世界的な選手層の厚さを有していなかったことも、席巻の因はあるだろう。ただ、この大会はその絶頂期を終えた日本にとって、1つの分岐点になった大会ではないかと考える。

世界のレベルの向上に伍(ご)していくためには、他国に負けない圧倒的な練習量に加え、マット外での支援が不可欠だ。

西口茂樹強化本部長は大会を総括し、メンタルトレーニング、ウエートトレーニングの必要性を説いた。準備はしているが、なかなか自発的に利用しない傾向があったという。ただ、絶対にかけてはいけないという技を焦ってかけてしまう選手などを見ると、精神面での課題は顕著で、「今後は利用を促していきたい」とする。

肉体強化も必要だ。68キロ級の土性沙羅は通常体重が66キロ程度。この階級の世界の「アスリート化」は顕著で、長身に筋肉のよろいを身にまとい、技術レベルも高い選手が出てきている。準々決勝で土性を破ったタマイラ・メンサー(米国)のパワー、俊敏さ、テクニックには目を見張るものがあった。他階級でも肉体改造は求められるだろう。

同本部長は「厳しい結果であることは事実だが、オリンピックまでに克服できないことはない」とも述べた。すでに金メダルを取れなかった選手たちの個々の強化策は具体的に描いているという。

男子グレコローマンスタイルの責任者だった15年大会でリオ五輪の出場枠を1つもとれない惨敗から、本番では一気に巻き返した名将だけに、その確認には説得力がある。

前例からいい意味で離れてみる。その1つのきっかけとして、今大会が機能すれば東京五輪でも明るい結果が見えてくる。

【レスリング担当=阿部健吾】