【シュツットガルト(ドイツ)4日=阿部健吾】体操の世界選手権がシュツットガルトで開幕した。

東京五輪の大勢を占う決戦で、男子日本代表の骨格を担うのは兄航(23=セントラルスポーツ)、弟翔(かける、20=順大)の谷川兄弟。昨年は兄が初代表も弟は補欠で、2人で日の丸を背負う初の世界舞台になる。7日の予選での戦いを前に、その「原点」を振り返る。女子はこの日予選が始まり、日本は5日に登場する。

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 2人が初めて同じ舞台に立ったのは13年前、翔が小2で初試合を迎えた千葉県の地域大会。前夜、ワクワクし過ぎた弟は、「『航は緊張しているんだから、騒がないの』と母に言われたんですよ」と懐かしむ。兄は2歳年上で試合が楽しみだけでないことも知っていた。弟はまだそんな難しさも知らず、無邪気に高揚していた。そんなデビュー戦前夜だった。

大会は学年別で先に演技を終えた翔は2位。「初めてだったのでどんな順位になるかもわからなかったんですが、欲を言えば優勝したかったですね。まだ上に人がいるんだと思いました」。最初の試合で知った悔しさが、上を目指し続ける原動力の発端となった。その姿を「ガンバ!」と観客席から応援した航。その後の出番では、弟が「ガンバ!」の声を響かせていた。

昨年の世界選手権(ドーハ)でも、弟は客席から応援する側だった。4月の全日本選手権を制した新星は、以降の不振で代表を逃して補欠に。活躍する日本代表陣を目の当たりにし、「出たかったなあ」と感じた悔しさをバネに、今年は全日本、NHK杯の連勝で代表入りを決めた。

実は2人で同じチームで戦った経験は多くはない。学年で2つ違い。中学、高校では1年生の翔が強豪校で3年生を超えるのは容易ではなかった。日本代表で初共演は7月のユニバーシアード(イタリア)で、主要国際舞台では今大会が初。兄は「去年はもどかしかった。翔が代表に入れてうれしい」と喜ぶ。

2日の練習後、翔は「ワクワクしています」と言った。それはデビュー戦と重なる心境かもしれない。航が3日の練習で左足首を負傷したが、「同部屋なんで慰めたりしておきます」とニッコリ返した。さすがに母に注意されるほどの騒がしさはないだろうが、その明るさが何よりの支えになるだろう。