【シュツットガルト=阿部健吾】女子日本代表が東京五輪出場枠を確保した。予選で4種目合計161・228点の11位で決勝進出は逃したが、昨年の上位3カ国を除く9位までの条件を8位でクリアした。チームをけん引したのは主将の寺本明日香(23=ミキハウス)。盟友のエース村上茉愛(23)を欠く窮地に、悩みながらも後輩を支えきった。

寺本の眼光は厳しく、鋭かった。確固たる覚悟を感じさせる演技の連続だった。五輪も含めると9度目の日の丸を背負う戦い。23歳で自らを「おばあちゃん」と語る経験値は、簡単には崩れない。最初のゆかは最後の着地で乱れ得点を伸ばせずも、すぐに立て直す。直後の跳馬は高難度のチュソビチナで14・633点を稼いだ。「いつも通りよかった」。感情の起伏を抑えるように、動じない姿で仲間を鼓舞した。

直前には「いつも通り」とはいかない日々もあった。代表の両輪だった村上がケガで代表落ちし、立場の勝手が違った。頼れる相手が不在で、しかも自身も故障で調整が進まない。9月17日の試技会前には杉原が左足を痛めて欠場。重なる心配事が爆発。直後に電話で田中監督にぶちまけた。「私の不安をわーっと言ってしまった」。感情を吐き出すと、最後に「絶対に権利取れるから大丈夫」と受け止めてくれた。「すごく救われた」と転機だった。

昨秋のパワハラ騒動で塚原体制が終わり、昨年大会には代行のピンチヒッターを務めた監督と、歩み寄って関係を築いてきた。7月のユニバーシアード大会でイタリアに遠征した際には、仲間と町へ。監督が好きなワインを誕生日祝いにしようと持ち帰った。寄せ書きの色紙も添えて、結束を深めた。「『ヒカルX』のイラストもつけました」。監督が自ら名付けたが協会に却下された平行棒のオリジナル技の名前も、あえて書き込んだ。おちゃめ心も喜んでくれ、一体感が強まった。“直電”の一言でそれはさらに高まった。

「寺本選手は村上選手がいない分、私たちのことを考えてくれた。自分の演技をしっかりしないといけないなと思いました」。梶田は他の後輩気持ちも代弁して感謝した。畠田、杉原、松村もその姿に勇気づけられるように大きなミスなく、緊張感あふれる中で声を掛け合い、踏ん張った。上位進出はかなわず、ギリギリの戦いを強いられる中で、結果は残した。

おそろいのお守りも作るなど、フォー・ザ・チームに骨を砕き続けた大黒柱は出場枠が決まるとわずかの涙と、笑みを見せた。「枠を逃したら引退しようかなと思っていたくらいだった」とも明かした。そして続けた。「せっかくのチャンス。挽回なければいけない」。リオ五輪は4位。村上が戻っても、このままではメダルには届かない。安堵(あんど)感の先に、新たな覚悟も宿していた。