レスリング男子グレコローマン77キロ級の阪部創(26=自衛隊)が24日に都内で会見を開き、10月8日付けで製薬会社2社を起訴した経緯を説明した。沢井製薬(大阪市)と陽進堂(富山市)に対し、慰謝料など6039万4784円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。

阪部は2位となった18年6月の全日本選抜選手権のドーピング検査で禁止薬物のアセタゾラミドが検出され、同8月に暫定的資格停止処分を受けた。その後、自主的に分析機関で検査した結果、胃腸薬として服薬した「エカベト」への混入の報告を受け、19年2月に過失なしの決定を受けた。沢井製薬の市販薬「エカベト」にはアセタゾラミドの成分は添付文書に不記載で、一切の過失はないと判断された。その後、2社と協議してきたが責任を認めることはなく、提訴に至った。

沢井製薬側は、混入は委託した会社の製造ラインで起きており、予見は出来ないとして責任を認めていない。会見した岡部鉱平弁護士によれば、「身体に対する危険性はないとしている。アスリートだからという考慮はされていない」と交渉が決裂した理由を述べた。現在も「エカベト」は流通しており、さらなる被害者が出ることも危惧(きぐ)し、裁判を起こしたという。

阪部は「選抜の結果も失効している。2度と問題が起きてほしくない」と希求した。停止期間で東京五輪の選考会だった18年12月の全日本選手権には出場できず、選手生活に多大な影響があった。他選手の結果により、まだ東京五輪の可能性は残しているが、予期せぬ無罪のドーピング陽性で、道が閉ざされそうになった事態は重い。自衛隊の全体練習にも参加できず、1人でトレーニングを送る日々で精神的にも被害を受けた。

11月15日に第1回の口頭弁論が開かれる。

◆阪部創(さかべ・そう)。1993年(平5)10月19日、和歌山県生まれ。紀北工高、神奈川大から15年4月に自衛隊入校。13年全日本大学グレコ選手権3度制覇、16年全日本選抜優勝、19年国体優勝(87キロ級)。世界選手権は16年に80キロ級で9位。身長178センチ