カヌー・スラロームの男子カヤックシングルで、御殿場市の企業が開発した国産艇に乗る足立和也(29=山口県体協)が先月、東京オリンピック(五輪)代表に決まった。欧州製が主流の中、レーシングカーの設計技術を駆使した「足立専用モデル」で夢の表彰台を目指す。スラロームは急流に設けられたコースの旗門を通過しながらタイムを競う種目。国産の競技用カヌーは東洋大なども開発を進めているが、五輪代表で国産艇を使っているのは足立だけだ。

「コンコンコン」。10月のテスト大会のレース後、足立が黒一色のカヌーを拳でたたくと、乾いた硬質な音が響いた。炭素繊維製で「硬さがある分、波の感触が直接的に体に来るので突然の波に反応がしやすい」と艇の特長を説明する。

自動車レースのF1の開発にも携わったムーンクラフト社の由良拓也社長(68)は、2016年末から開発を頼み込んできた市場大樹コーチ(42)の熱意に動かされた。カヌーの設計の経験はなかったが、同社の技術で「簡単にできるだろう」と引き受けた。

昨年12月、足立が当時使っていた欧州製の艇の計測から作業を始めた。これまでの感覚でつくった今年3月完成の1号艇は、通常の艇よりも約1割も重くなる失敗作。「結構大変だ」と、由良社長の職人魂に火が付いた。素材の検討からやり直し、軽くて硬いレーシングカーの車体と同じ素材にたどり着いた。足立のミリ単位の細かい要望に高い加工技術で応じ、手探りで理想の形状を追究した。

改良を重ねた5号艇で東京五輪を射止めた足立は「秒(単位)で違ってくる」と絶大な信頼を寄せるが、まだ完成形ではない。由良社長は「長所の高速性を殺さずに旋回性を上げ、東京五輪のコースで最も乗りやすい艇をつくってあげたい」。選手の夢の実現に向けて二人三脚で取り組む。