男子でオリンピック(五輪)2連覇の羽生結弦(24=ANA)が、唯一の100点超えとなる109・34点でSP首位発進した。今季は節目となるシニア10年目。昨季の再演となるSPとフリーの完成度を高めるため、五感を使って演技を磨き上げている。シリーズ上位6人で争われるGPファイナル(12月、イタリア・トリノ)への、3年ぶり進出がぐっと近づいた。

演技を終えた羽生は、大歓声に包まれながら天を仰いだ。両手を数回たたき、胸に手を当て、柔和な表情。「天を仰いだのは、ホッとしたから。拍手はいつからか明確ではないが、いい演技をしたら拍手すると決めていた。胸に手を当てたのは『みなさんの応援を心で受け止め切れたよ』って言い聞かせた」。安堵(あんど)からだった。

自身のSP世界最高得点にあと1・19点と迫る演技で、唯一の大台100点超えも、さらに上を目指す。4回転サルコーとトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を鮮やかに着氷したが、最後の連続ジャンプで体勢を崩した。得点を待つ「キス・アンド・クライ」では、少し曇った表情。「シーズンベストじゃないんだなって。もっとやらなきゃダメだと思った。正直悔しい。完璧には程遠い」。今季の自己ベストに0・26点及ばず悔しがった。

五感を駆使し、演技の完成度を高めてきた。21日の練習では壁際にしゃがみ込み、リンク全体を見渡した。失敗してもひたすら跳ぶわけではなく、ジャンプに入るまでの動作や軌道を繰り返すなど、入念にチェック。「1つ1つ丁寧に、いろいろな物を感じながら準備して、自分が思い描くいい演技ができたらいいなと思っている」。氷上で感性を研ぎ澄ませている。この日が57歳の誕生日だったジャンプ担当のブリアン・コーチも「視覚的に見ることを彼は大事にしている。イメージトレーニングもするし、いろんな要素が相まって、ジャンプが優れている」と評価する。

午前の練習では、手袋を外し、氷の感触を確かめるように手のひらを氷上につけながら数メートル滑走。終盤には、18年平昌五輪で2連覇を達成した時のSP「バラード第1番」と同じ冒頭からの動きを試した。「(現在のSPの動きが)マンネリ化というか、やり過ぎちゃうと本番で使えないと思った。いいイメージのある“バラ1”で感覚よく終わろうと思った」と狙いがあった。五感を総動員してSP「秋によせて」を演じきる。「曲に感情を入れると、ジャンプを跳ぶのがすごく難しい。曲にジャンプのテンポを合わせ過ぎるから。ただ、僕のフィギュアスケートはそういうところが一番大事。そこができてこそ『僕は羽生結弦』って言えると思う」と風格を漂わせた。

2季連続のフリー「Origin」はいまだに、全ての出来栄え点がプラスになったことはない。それでも「明日は明日で別の演技。気持ちよく最後まで滑れるように準備したい。とにかくNHK杯をしっかりやりきりたい」と気負いはない。積み上げてきたものを、3年ぶりのNHK杯で出し切る。【佐々木隆史】