2020年東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(82)が東京大会の森羅万象について、直接語る連載「会長直伝」の第3回は「2020大会後のスポーツ界に必要なこと」。1969年(昭44)の衆院議員初当選からスポーツ政策に携わってきた視点から論じた。

【取材・構成=三須一紀】

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-長い間、スポーツ政策に携わってきた

森会長 私は議員に初当選した昭和40年代から一貫して文教政策に取り組んできたが、文部省の教育は、「知徳体」の順番で、体育は一番後ろ。何とか「体」の位置づけを上げなければいけない、いくら優秀な人でも健康で人格的に優れていなければならないと考え、文部大臣の時には「体徳知」の順番に変えなさいと言ったが、なかなか理解してもらえなかった。国の予算をみても、学校教育や大学・科学予算が中心で、スポーツ予算は本当に少なかった。

-そこから考えると、15年のスポーツ庁発足は大きな1歩になった

森会長 スポーツを独立させたスポーツ省をつくるか、その前にスポーツ庁にしてスポーツ予算を思い切って増やすか、当時からそういう思いだった。昭和40年代のスポーツ予算50億円が、令和2年度は351億円。しかも、今回は初めて大臣折衝事項になったのだから、雲泥の差だね。これは萩生田大臣の功績だ。スポーツに対する国の責任が本当に大きくなった。

-昨年、日本オリンピック委員会(JOC)と日本スポーツ協会の再統合について言及した

森会長 かつて、だいたいの競技団体は、競技力を向上させて五輪選手を輩出し成績を上げることが目的なのか、少しでも地域の市民にスポーツをする機会をつくるのが目的なのか、はっきりしていなかった。そこで、日本体育協会とJOCに分けて目的を明確にした。昨年体協の岸記念体育会館が「ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア」という新しい会館に変わったので、この機会に先祖返りするわけではないが、スポーツ界が1つにまとまった方が良いのではないかと思う。

-今年2つの組織が統合される動きはあるのか

森会長 関係者の中にはそう考えている人も多いのではないか。要は人の問題。前体制のJOCなら、どことも仲良くしないだろう。現在の山下(泰裕)会長の体制なら悪いことじゃないと言うのではないかな。

-JOC山下会長は前向きなのか

森会長 さあ、それはまだ話をしていないよ。

-2020年を契機にさらにスポーツの地位を上げるためには

森会長 地位向上には、その前にスポーツ施設を充実させないと。野球場、ラグビー場、サッカー場、みんな立派なスタンドをつけて、プロの試合でもやるかのようなものを考えるから余計に金がかかる。もっと自然に、まさにウオークインで市民が自由に入っていける芝生の「○○場」をつくればいい。子どもたちがはだしで入っても良い。

-現状はどうか

森会長 学校のグラウンドの場合、予算項目を見ると「屋外運動場」「屋内運動場」という古くさい感じになっている。屋内運動場は講堂、体育館のこと。屋外運動場には必然的に400メートルトラックがあり、その真ん中で球技ができるようにしてある。どこも同じ。学校は、いつまでも子どもたちがいると早く帰れと言われる。だから、誰もがそこに行ってスポーツを楽しめるという雰囲気のスポーツ施設は、日本にはない。

-誰もが自由に入れるスポーツ施設を国の予算で整備すべきということか

森会長 国の予算じゃないとお金がないでしょ。400メートルトラックをつけたグラウンドばかりなのはどうかと思う。でもサッカー場、ラグビー場としたら、簡単に予算がつかない。

-「自由」がテーマか

森会長 管理者がいて、スパイクで入ったらグラウンドが傷むから脱いで入りなさいと言われたら意味がない。どういう単位でやったらいいか分からないけど、人口が1万人いる地域には少なくとも、多目的「○○場」あっていいんじゃないかと思う。

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現実にボール遊びなど禁止事項が多い公園が増えている。スポーツをする者としない者が分断されつつある。しかし、2020年を契機に国民がスポーツに親しみ、競技者も市民も垣根なくスポーツを楽しめる世の中になれば、東京大会を開いた大きな意義になる。