2連覇を目指す神戸製鋼が昨季決勝に続いてサントリーを35-29で下し、開幕3連勝を飾った。

19年W杯日本代表のFB山中亮平(31)が劣勢の流れを断ち切り、前半24分には2点差に迫る貴重なトライ。代表のジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(50)が視察した大一番で存在感が光った。阪神・淡路大震災から25年となった17日以降、最初の地元開催。2万6312人の大観衆に背中を押され、王者が弾みをつけた。

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一瞬のひらめきが、劣勢の王者を奮い立たせた。3-10で迎えた前半22分、山中は自陣でボールを受け「キックを蹴ろうかな」と考えた。セオリーは陣地の獲得。それでも迫り来る防御ラインが、横の動きに弱いFWと気付いた。「いけるかな?」。選んだのは全国制覇した大阪・東海大仰星(現東海大大阪仰星)高時代からの得意技。左足でキックするそぶりを見せ、相手の隙間を抜いた。「結果が良かった」。約40メートルの前進で一気にたたみかけた。

2分後、勢いに乗った走りで中央ラックからのパスを受けた。自分が起点となり、終着点はインゴール。2点差に迫るトライにSOカーターのゴールで10-10と追いついた。反撃の口火を切った張本人は「特別なことはしていない。前(相手の状況)を見られて良かった」と控えめに喜んだ。

高校時代に磨いたのが状況判断だった。伝統の試合想定ミーティング。時に4~5時間も話し合う場で「ちょっと待て!」と仲間に意見する役目を担っていた。世代を代表する司令塔だったが、1~2年時はベンチを温める日が続いた。当時監督だった土井崇司氏(60=現東海大相模高顧問)は「勝負のあやを知らなかった。時間、点差を考え、何を選ぶべきか。上級生になってから、瞬間的に『これだ!』と分かるようになった」と成長を語る。

日の丸を背負ってW杯を戦い、その感性を今も磨き続ける。25年前の阪神・淡路大震災の映像を見て、臨んだ大一番。「神戸の町だったり、神戸を盛り上げることを考えて、ラグビーをしている」。最後尾の頼れる男は、勝利の価値を心からかみしめた。【松本航】