競泳の09年世界選手権男子100メートル背泳ぎ金メダル古賀淳也(32)が16日、ドーピング検査陽性による2年間の資格停止処分明けを迎えた。日刊スポーツ新聞の書面による取材に応じ、現在の心境、18年5月からの資格停止期間、ドーピングについて語った。1年延期された東京五輪に加えて、最大の目標に得意の50メートル背泳ぎでの世界新記録を掲げ、再び歩み出すことになった。【取材・構成=益田一弘】

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古賀が、再びスタートラインに立った。5月16日、ドーピングによる2年間の資格停止期間が明けた。

古賀 資格停止期間が過ぎた今、2年という期間を振り返ると非常に長く感じます。そして再び、誰とでも泳ぎ競えるように戻れたことをうれしく思います。

知らせは寝耳に水だった。18年4月、国際水連から陽性反応を通知された。

古賀 自身の検体から違反物質が検出された通知が来た時は全く身に覚えがなかったのでただただ信じることができませんでした。

摂取していたサプリメントに成分表に記載がない禁止薬物が混入(汚染製品)していたことが原因だった。米国の検査機関などに分析を依頼し、スポーツ仲裁裁判所にも提訴。陽性反応から1年3カ月かけ、禁止薬物の摂取が意図的でないことを証明、停止期間は4年から2年に短縮された。

古賀 やはり意図せずに摂取してしまったという、目に見えない事柄を理解してもらうこと、またそれが外国語であったことが非常に難しいところでした。現在、さまざまな会社や個人単位でも健康食品が製造されるようになってきました。作る人間が増えれば増えるほど、製造や製品の管理などが難しくなり、その過程でコンタミネーション(混入)がもっと増える可能性が高くなってくると思います。選手がサプリメントを使用する場合、製造した会社以外の第三者からの検査、認証を受けたものに限定したり、極力、サプリメントを摂取しない工夫が必要になると考えます。

この2年、ほぼ泳いでいない。泳ぎたくても泳げない。違反は故意ではなかったが、やはり周りの目も気になった。先が見えない時間、興味があったアクセサリーや練習道具を作った。

古賀 (物作りは)ちゃんと自分の意見や感じたことをもとに、実際に形にできる。他人から受け入れてもらえない自分自身を、違った形で受け入れ、支えてくれるものになっていた。

コロナ禍で東京五輪は来夏になった。図らずも、延期でその道が開かれた。

古賀 資格停止以前からの大きな目標です。しかし新型コロナの影響もまだあり、ふわふわと宙に浮いて近づけば消えてしまう蜃気楼(しんきろう)のように感じています。行われるとすれば、それはそれで選手としての立場から非常にうれしいことではありますが。今は目の前に来る舞台で自分の実力が発揮できるようにしようと考えています。

復帰の日を迎えて、古賀には大きな目標がある。

古賀 非五輪種目ですが、得意の50メートル背泳ぎで世界記録を出すこと。また自身の活動から得た経験や工夫をスポーツ界だけに限らず、これから活躍するであろう後輩たちに伝えていきたい。

国内でドーピング検査陽性から世界のトップにカムバックした前例はない。古賀の1歩1歩が、誰も歩んだことがない挑戦になる。

 

◆古賀淳也(こが・じゅんや)1987年(昭62)7月19日生まれ、埼玉県出身。4歳で競技を始める。09年世界選手権100メートル背泳ぎ金メダル。16年リオ五輪代表。17年世界選手権50メートル背泳ぎ銀メダル、同日本記録24秒24を持つ。ドーピング検査陽性で18年5月から2年の資格停止。181センチ、80キロ。