スポーツがある日常が少しずつ戻ってきた。新型コロナウイルス感染拡大に伴う活動制限も緩和傾向。「密」を避ける、道具の共用禁止、少人数での練習などスポーツ界も動き始めた。国内競技団体(NF)を軸に、各競技が活動再開の指針を独自で制定。「スポーツ再開への道~ガイドラインあれこれ~」と題し連載する。感染防止に留意しながら、その競技ならではの問題に苦心する各NFの今を追った。第1回は柔道。

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6月1日。柔道の総本山の東京・講道館では、異様な光景が広がっていた。政府の緊急事態宣言の解除を受け、約3カ月ぶりに再開された稽古は「組み合わない柔道」だった。

小中学生約100人が2班に分かれ、全員がマスク着用を義務付けられた。1人当たり畳4枚のスペースで、相手と2メートル以上離れた。畳には立ち位置を記した赤テープも貼られていた。ジャージー姿の子供たちは「声出し厳禁」のため、黙々と1人打ち込みや受け身などで1時間汗を流した。観覧席で見学していた保護者間の距離が近いと、講道館職員が「そこ、3密です! もう少し離れてください」と注意を呼び掛ける徹底ぶりだった。

全日本柔道連盟(全柔連)は練習再開に向けたガイドラインを4段階で構成。現在は第1段階で、第2段階から相手と組み合う打ち込みが可能となる。第3段階では実戦形式の乱取りができ、対外試合や出稽古が許可される第4段階は再開から2カ月以降となる。

全柔連は他団体と比べて慎重な姿勢を貫く。背景には、競技の特性や新型コロナ対策の反省がある。柔道は濃厚接触が生じる“3密競技”で、選手は2カ月以上の練習自粛で体力低下によりけがも懸念される。さらに、4月には講道館内にある全柔連事務局でクラスター(感染者集団)が発生し、常勤者19人が感染した。選手強化が大幅に遅れる可能性もあるが、現在は競技力向上よりも感染拡大防止を最優先する。

活動再開の長期化を見据え、東京オリンピック代表や男子代表の井上康生監督らは、子供らに1人打ち込みなどの動画をSNSに投稿し、創意工夫した練習方法を共有する。金野潤強化委員長は「コロナと共存しながら1つ1つ前進することが大切。日本柔道が一致団結することが、早期解決につながると信じている」と切望した。【峯岸佑樹】