国際スケート連盟(ISU)がフィギュア部門で創設し、11日に授賞式が行われた「ISUスケーティング・アワード」で審査員を務めた元世界女王の安藤美姫さん(32)が13日、取材に応じ、オンライン祭典の舞台裏を紹介した。男子の羽生結弦(25=ANA)が初代「最優秀選手賞」(MVS=Most Valuable Skater)に輝いた中、審査員で最年少の安藤さんも初の大役を全う。自国の選手には投票できない決まりで公平性が保たれていたこと、全7部門の表彰がもたらす未来への好影響を語った。

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羽生の初代MVSで盛り上がったアワードに、安藤さんも同じく日本を代表して関わった。グランプリシリーズを開催する6カ国から1人ずつの審査員。合議制ではなく「ほかの方がどなたに投票したか分かりませんし、結果を知ったタイミングもファンの皆さんと一緒でした」。厳格な守秘義務契約があり時期は明かせないが、トッド・エルドリッジさん(米国)ら他国の5人と事前にオンライン会議。最年少ながら積極的に段取りなどを確認した。最終3候補は一般、メディア、加盟国の票を基にISUが決め、審査員も1票を投じ、当日はそれぞれの国で受賞者発表を見守った。

その投票は、自国選手にはできない。羽生の戴冠は“世界”が決めた。公平性を保って関与しなかったからこそ、審査員ではなく個人的な思いで祝福できる。「私も日本代表のつもりでしたし、自国の選手が表彰されたことは素直にうれしかったです。羽生選手が、あらためて世界に認められていて、絶対的な存在であることをファンの皆さんも再認識できたと思います。応援する方々も投票できる新しい取り組みも良かったんじゃないでしょうか」。

本来は今年3月の世界選手権最終日に行われる計画だった。昨年、就任の打診があり「私で大丈夫ですか!?」と謙遜したが、07年と11年の世界選手権を制した実績に加え、不可欠な英語力も申し分なかった。書面でのやり取り、リモート対話をこなせたのも17歳から海外を拠点に挑戦してきたから。「ジュニア時代からISUの方々には大変お世話になりましたし、出産後は特に」。13年4月に第1子が誕生した後、異例の競技継続が実現したのも「チンクワンタ前会長はじめ、皆さんが助けてくれたから」と今も感謝する。17年のISU125周年記念式典にも日本代表で招かれた。

そして「今回も、ISUの新たな試みであるアワードに初代審査員という形で携われて光栄です。少しは恩返しできたかな」。3月であれば現地入りの予定。既に航空券も手配されていた中、直前に新型コロナ禍による延期に見舞われた。その中で準備の一端を担った人間として、開催を諦めなかったスタッフたちも知っている。不安だった春を乗り越え「時代に見合ったオンライン開催で良かったなと今は思います。世界中の皆さんが『おうち』で気持ちをシェアして楽しんでいただけたと信じています」と代替実施に納得した。

来年以降の開催は未定だが、可能性を感じている。「間違いなく選手たちのモチベーションになりますよね」。競技性、芸術性が魅力の両輪であるフィギュアスケートは「衣装やプログラムなど(順位以外に)得意な部分も評価されるべきです。各大会の勝者は1人だけですけど、それ以外の選手も戦いながら、楽しみながら、自分の武器でアワードを狙う。そして、それが世界レベルで表彰されるとなれば見方も広がるでしょう」と継続を歓迎した。

興奮を目の当たりにしたから思う。「うらやましい! 私の時代にもあったら良かったのに!」。ジュニア時代で14歳だった02年、女子で世界初となる4回転ジャンプ(サルコー)成功者になり、04年のシニアデビュー戦がいきなり最高峰の世界選手権。しかも、憧れの女王ミシェル・クワンに次ぐ4位と驚かせた。「私も新人賞をもらえたかもしれませんよね。衣装にも相当こだわってきたので、最優秀衣装賞も狙えたかもしれませんし」と笑った。

対象が全7部門と多様なアワードは新たな価値観を生み出すか。「今年のような豪華ラインアップも華やかで素晴らしいし、これからの国の選手が台頭しても面白い。さまざまなスケーターの励みになると思います」。自身もコーチ、振付師として未来の受賞者候補に入っている。【木下淳】

◆ISUスケーティング・アワード 今年3月にカナダ・モントリオールで第1回授賞式が行われる予定だった新設の賞。全7部門あり、最優秀の「選手」「衣装」「プログラム」「新人」「振付師」「コーチ」(ここまで19-20年シーズン対象)と「特別功労賞」(生涯評価)を表彰する。最優秀選手(MVS)選考基準は「ファンの人気、メディアの注目度、スポンサーからの評価とともにフィギュア界の大衆化とレベル向上に貢献したスケーター」と定義。6人の審査員は安藤さんのほか、エリック・ラドフォード(カナダ)陳露(中国)スルヤ・ボナリー(フランス)タチアナ・ナフカ(ロシア)とエルドリッジの各氏が務めた。

◆安藤美姫(あんどう・みき)1987年(昭62)12月18日、愛知県名古屋市生まれ。9歳でスケートを始め、02年ジュニアGPファイナルで女子史上初の4回転ジャンプに成功して優勝。中京大中京高1、2年時に全日本選手権2連覇。07年世界選手権(東京)で日本女子4人目の女王となり、11年大会(モスクワ)も制した。同年の4大陸選手権(台北)も頂点。トリノ五輪15位、バンクーバー五輪5位。13年4月に第1子の長女を出産し、同年末の全日本選手権を最後に引退。指導者、プロスケーターとして活躍し、14年から介助犬サポート大使も務める。162センチ。血液型A。