10月16日、ホンダのF1活動を統括するブランドコミュニケーション本部の渡辺康治本部長が取材に応じ、2021年限りでのF1活動終了に至った経緯を詳しく語った。

4月1日に現職に就いた渡辺本部長は、前職のヨーロッパ統括部長時代の3月からレッドブルとの関係を構築し、レッドブルのヘルムート・マルコ(モータースポーツアドバイザー)と連携を取ってきたという。

「4月に先進パワーユニット・エネルギー研究所を設立した過程でF1の是非について議論を進めてきましたが、レッドブルとも議論をしながら活動終了の方向性が定まったのが8月、正式に決めたのは9月末でした。レッドブルからは『ホンダが終了するならホンダの決定。辞めるなら今後のパートナーを探すために早くアナウンスしてもらいたい』と言われました」

レッドブルがホンダのF1用パワーユニットに関する知的財産権を買い取って独自に使用し続けるという案も報じられており、まだ具体的な交渉はしていないものの、ホンダとしては前向きに話し合う用意があるという。

「ホンダがいなくなった後にレッドブルがどう続けるかは彼らが決めることですが、ホンダにできることがあれば議論をするしやれることは協力していくという前向きな姿勢です。まだレッドブル側から具体的な依頼はありませんので議論はこれからですが、ホンダのパワーユニットを使う検討をしているというレベルの話は聞いています。(2022年用パワーユニット供給元の申請期限である)2021年1月1日までに決めなければならないということは役員会としても分かっていますしそれまでに決定するつもりです」

F1から撤退することに対し、F1ファンからはホンダに対する批判の声が鳴り止まないが、社会情勢の急速な変化に対応するためには、ホンダも変わらなければならないと渡辺本部長は説明する。意識調査によれば、40代以上の世代では「ホンダ=F1」というイメージも根強いが、全体的にそのイメージは薄れつつあり、20代など若者世代ではホンダジェットなど多岐に渡り「安全や環境への優しさ」に対する要望の方が強いという。発表の会見で八郷隆弘社長が繰り返し述べた「2050年カーボンニュートラル実現のため」というのが、その最たるものだ。

「サステナブルな社会のために、会社として元々考えていたことが、新型コロナウイルスをきっかけとして要求されるスピードが急激に速くなった。今までのスピードでやっていたらダメになった。そのサステナブルのひとつがカーボンニュートラルで、それを自動車だけでなくあらゆるパワーユニットにものすごいスピードで対応していかなければ、対応することもリードすることもできない。そこにF1の技術者にあたってもらいたい。F1がダメとかF1に興味を失ったとかではなく、別のやらなければならないことができたということです」

 ホンダとしてはF1で独創性やスピリットを発揮するのではなく、自動車という枠組みではない広義のモビリティを支える先進パワーユニット開発の分野で独創性を発揮する企業へと転換を図ろうとしているわけだ。そして、それは時代のニーズにあったものでもある。

「研究所に量産分野が多くなることで独創性が失われつつあったが、それではホンダらしい独創性がなくなる。未知のチャレンジができない。そのために先進パワーユニット・エネルギー研究所を設立し、ここをホンダから失われつつある独創性を取り戻していく軸にしたい。そうしなければホンダらしいエッジは生まれないと思っています」

(米家峰起通信員)