6種目で争う個人総合で萱和磨(24=セントラルスポーツ)が首位通過した予選との合計173・764点で初優勝を飾った。安定感を武器に、日本の新エースの証明を果たした。来夏の東京オリンピック(五輪)では、04年アテネ五輪団体総合金メダルのインパクトを上回ると宣言。尊敬する冨田洋之さん(40)に自分を重ね、「栄光の架け橋超え」を誓った。種目別の鉄棒では内村航平(31)が15・700点を出し、3年ぶり5度目の優勝を果たした。

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萱には覚悟があった。「ここでできないなら、東京五輪でもできない」。6種目目の鉄棒、最終演技者。それまでの5種目でわずかなミスが続き、得点で後続に迫られ、落下すれば逆転負けする場面。ただ、重圧、不安に負けずに、ひたすらに強気だった。バーを握り、勢いよく離れ技を通し、着地は見事にピタリ。「しゃーー!」と代名詞の雄たけびを響かせ、首位の座を守り抜いた。

練習から多様な場面を想定してきた。首位で迎える最終演技者も描いていた。「決めないといけない場面で決めて勝つのが僕の夢」。04年アテネ五輪の団体総合決勝でそれを実現したのが、鉄棒の最終演技者の冨田さんだった。今でも拠点にする母校順大の恩師の着地は「栄光の架け橋だ!」の実況で、五輪の象徴的シーンに。それが体操を始めたきっかけだった。

初めて「日本一」に触れたのが冨田さんだった。06年のNHK杯。近所の幕張メッセで開催された大会が、初めて生で見た試合だった。そこで直前の前年の全日本選手権で2連覇していた日本王者から、Tシャツにサインをもらった。はしゃいだ。そして、未来の自分を思い描いた。

その夢は続き、同じ日本一の男になった。内村が不在の団体総合でも、エースだと証明した。そして、「アテネ五輪を超えて優勝したい。勝ち方にこだわり、記録にも記憶にも残る演技をしたい」。鉄棒の演技後、冨田さんから「おめでとう」と祝われた。それに、こう返した。「鉄棒の場面、五輪はこんなもんじゃないですよね?」。夢の先へ、腹はもうくくっている。【阿部健吾】